研究課題/領域番号 |
18K09937
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐藤 晋爾 筑波大学, 医学医療系, 教授 (30550165)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カール・ヤスパース / 精神療法 / 精神病理学 / 実存 / 感情移入 / マックス・シェーラー |
研究実績の概要 |
1)ヤスパースのAllgemeine Psychopathologie初版から第四版付録にある治療の項目内容の変遷を比較した結果、精神療法において最もヤスパースが重視していたのは、医師の精神療法技術でも人柄でもなく、医師患者双方の人格Personlichkeitであり、この変化はすでに第二版から認められていた。これまで本邦では同書が第四版で大きく改訂されたと考えられていたが、本検討で第二版改訂の重要性が明らかになった。 概要としては、初版出版の1913年当時は、まだ医師主体の傾向があり患者を「導く」ことが重要視されていたが、第二版から患者の主体性を重視することに焦点が移り、相互性にも触れられるようになった。そして第四版では、ヤスパースの哲学概念である交わりKommunikationが重視されるに至った。また治療技法については初版で世界観を形成する基盤を医師が患者に「教える」ことから、第二版で患者に彼ら自身の状態を「そのまま伝える」こと、第四版では医師患者双方の実存開明へと変化した。さらに治療技法の伝達では、初版で伝達不能だったが、第四版から部分的に伝達可能なものと改められた。最後に治療目標は、初版で「患者にとっての健康」から第四版では自身に対して自己を顕わにすることSich-offenbar-werden、「自己開明」へ変化していった。 先行文献では、初版から第三版をまとめ、それらと第四版と比較していたがそれでは検討として粗く、今回、第二版の重要性、さらにその現代的意義を明らかにできた。 2)ヤスパースは感情移入を治療者が内面で相手の心的生活を「思い描く」というごく素朴な方法としてしか提示していなかった。本検討でマックス・シェーラーの感情移入論を用いて、ヤスパースの感情移入についてさらに細分化し、臨床応用できるよう概念の更新を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヤスパースの精神病理学初版から第四版の精神療法の比較を実施する中で、ほかの概念も微妙な変化をしているが、これまであまり指摘されていない。 これらの点も治療に資する重要な課題であり、精神療法観の変遷のみならず、治療と感関連するヤスパースの意識外機構と神経症概念の変化、Ur, Elementなどの概念の変化などを、同時期に執筆された「世界観の心理学」「哲学」と比較しつつ、まとめる作業を行った。 また、同時期のマックス・シェーラーやガブリエル・マルセルなどの思想家との関係性などにも手を広げることになり、当初想定していなかった検討も行ったことも進捗状況に影響している。
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今後の研究の推進方策 |
ヤスパースの精神病理学の治療観の変遷は現在、論文化を進めている。この後にヤスパース的精神療法の在り方を模索する予定である。 ついで、今年度予定しているフランクルのロゴセラピーとヤスパースの精神療法観の比較検討を速やかに開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヤスパース関連図書をなるべく古書で購入したことに加え、また申請当初に想定した以外の問題もでてきたために、そちらへの検討を行い進捗が遅れ気味となったため。
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