研究課題/領域番号 |
18K09937
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐藤 晋爾 筑波大学, 医学医療系, 教授 (30550165)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カール・ヤスパース / 精神療法 / 精神病理学 / 実存 / ヴィクトール・フランクル / マックス・シェーラー / 実存分析 / ロゴテラピー |
研究実績の概要 |
本年度は「ヤスパースの精神療法論と、思想的に近いフランクルのロゴセラピーとの理論的、技法的比較」をテーマにあげていた。フランクルは自身の提唱した精神療法をロゴセラピー、実存分析と呼称し、著作にヤスパースを多く引用している。一方、両者は理論的に極めて近いが、フランクルの用いる技法は独特であり、ヤスパースの精神療法論とフランクルの理論と技法を比較して両者の問題点の検討を行うことを目的とした。 まず、ヴィクトール・フランクルのほぼ全著作にあたり、ロゴテラピーと実存分析の違いについて検討した。この違いの検討は、意外なことに管見の限りで行われていなかった。今回、1940年代初頭、中期、1950年代で、両概念とその関係に変化があったこと、さらに1970年代には実存分析概念自体が放棄されたことなど、十分に知られていない点を明らかにできた。これらは学会発表し、論文化して投稿中である。 さらに、ヤスパースが最終的に精神療法を「出会い」とした一方、フランクルはあくまで技法的な側面を重視し、また両者の実存概念は隔たりがあることも明らかになった。この点は、まだ論文化できていたので、今後、逐次、行っていく予定である。 本年度は、以上、当初の構想以外の発見もあって日本語論文化が遅れ、さらにヤスパースの精神療法観の変遷とフランクルの概念変遷を英語論文化していたと考えているのだが、その着手が遅れた。さらに年末のCOVID騒動などで、十分な予算消化が難しかった。 このため、計画では次年度に予定していたメダルト・ボスの著作と哲学者ハイデガーとの関係について、同時並行で着手を始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
内容的にはすでに次年度の内容を開始しているが、本年度の論文化作業が遅れている。ただし日本語での発表、論文化はほぼ予定通りである。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に入ることから、1)ヤスパースの精神療法観の変化のまとめ、2)フランクルの実存分析とロゴテラピー概念変化のまとめ、3)ヤスパースとフランクルの治療観、実存に対する考え方の差異、4)メダルト・ボスの現存在分析の概要のまとめ、5)ヤスパースとボスの実存の考え方の違い、6)実存概念を用いた治療のあるべき方向の提言 以上をまとめる予定である。
一方、ヤスパースの治療観の検討の中で、十分に今までの精神療法研究で触れられていない概念なども見出したので、それらを彫琢・抽出して、次の研究につなげられるようにまとめたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は国際学会出席(International Network for Philosophy and Psychiatry 2020年2月開催(Manchester)を予定していた。内容は統計学的な検証が精神医学においてどのような意義をもつかというJaspersの主著「精神病理学」で触れられ、かつ今もってactualな問題であった。ある程度、研究内容も進捗していたことからぜひ出席をと検討していた。しかしながら、2019年末からのCOVID流行の関係で、海外出張が所属研究機関から控えるようにとの連絡があり、出席を断念したことが大きい。さらに日本語論文の遅れから、英語論文化が遅れ、校正や投稿料が支払えなかったこともある。 次年度もCOVIDの流行収束のめどがたたず、国内学会の開催さえ危ぶまれている。 したがって、引き続き英語論文化や文献邦訳に重点を置く方向にし、特に本年度未使用分は、本研究と関連するJaspersが参照したとされるフランス精神医学の論文の邦訳を入手とその翻訳依頼に用い、研究内容に大きな変更を加えず、むしろJapsersの業績をさらに深めた検討を行い、結果の公表を行う予定である。
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