研究課題/領域番号 |
18K09961
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研究機関 | 公益財団法人結核予防会 結核研究所 |
研究代表者 |
村瀬 良朗 公益財団法人結核予防会 結核研究所, 抗酸菌部 結核菌情報科, 科長 (80535998)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 結核 / 分子疫学 / 全ゲノム解析 / 感染伝播 / 感染制御 |
研究実績の概要 |
本研究では日本列島から幅広く収集された結核菌株を網羅的にゲノム解析し、菌ゲノム情報・地理情報・患者情報を総合的に解析することで結核感染伝播を国レベルで明らかにすることを目的としている。この目的を達成するため、研究計画では日本全国から収集された981株のゲノム情報を用いることとしている。 研究手法上の課題として、多数の結核菌株からゲノムDNAを安全かつ効率的に精製する手法を確立する必要があった。今年度の前半はDNA精製系の比較検討を行い、簡便・迅速・安価なクロロホルム・ビーズ破砕法を確立した。従来は困難だった1日以内のバッチ精製が可能になったという意味で新規性があり、本精製方法について臨床微生物学会で発表した。 今年度の半ば以降は新たに確立したDNA精製法を用い、結核菌株からのDNA精製とゲノムシーケンスに注力して研究を進めた。年度末までに981株のうち732株のゲノム解析を終了している(一部は他の研究プロジェクトによる)。 これまでの菌ゲノム比較解析の結果より、複数都道府県を跨ぐ結核感染伝播の事例が複数見出されている。本邦では結核菌分子疫学調査実施体制上の制約があり、調査対象範囲が当該自治体内に限定されるという保健行政上の課題がある。我々の研究成果は、近隣自治体間における調査情報の共有が感染経路の全体像を把握するために必須であることを示しており、現行の分子疫学調査体制を改善していくことが必要であると考えられた。本研究成果については、「広域的な結核菌ゲノム分子疫学調査の有用性評価に関する研究」として結核病学会で発表した。また、現在の分子疫学調査において標準的に用いられている結核菌遺伝子型別法であるVNTR法とゲノム配列比較法を菌株識別能を比較し、ゲノム配列比較法の有用性を示す知見を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本究計画手法における最も大きな課題は多数の結核菌株のゲノム情報を効率的に取得することであった。この課題を克服するため、以下の3つの作業工程を改善して研究を進めた。 1. 新たなDNA精製法を確立することで、従来よりも迅速・簡便・安価にゲノムDNAを精製する体制を整えた。 2. ゲノム解析におけるライブラリー調製において、国立感染症研究所と共同で確立した手法を採用することで、効率的に作業を進めた。 3. シークエンス解析の工程において、NextSeq 550(イルミナ社)を採用することで低コストかつ効率的にシーケンスを進めた。 これらの作業工程の改善により、当初の予定よりも研究計画を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は引き続き結核菌のゲノム解析を進めると共に、得られたデータの詳細解析を実施して研究成果をまとめる。 本研究の特色は、結核感染伝播を菌ゲノム情報だけでなく、地理情報と患者疫学情報から総合的に解析できる点にある。これらの情報を活用することで、結核感染伝播が発生しうる標準的な地理的範囲を高い精度で推定できると期待される。また、従来のVNTR遺伝子型別法と全ゲノム配列比較法による菌株識別の妥当性を地理情報を用いた患者発生動態から比較する予定である。 タイムスケジュールとしては、年度前半に結核菌ゲノム解析を終了させた後、ゲノム情報、地理情報、患者情報を用いた詳細解析を行い、英語論文として投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画では次世代シーケンサーを用いたゲノム解析を実施している。研究に要する試薬の単価が高いため、次年度にまとめて残額を執行することにした。
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