本研究の目的は、陽子線治療が、X線照射による治療と比べて、小児がん患者の将来的な健康や、QOLを高めるかどうかを明らかにすることである。しかしながら、X線照射をうけた群と陽子線治療をうけた群のみの比較では、N数が小さく、統計学的に有意な結果を出すことが難しいことが判明した。そのため、調査対象者を、陽子線治療・X線治療を受けた群のみでなく、筑波大学附属病院で小児がんの治療をうけた小児がん経験者全体に広げることを決定した。再発や合併症の有無のみならず、出来事インパクト尺度や不安尺度、ヘルスリテラシーや、晩期合併症早期発見のための人間ドック受診希望についても調査に含めた。対象者249名で、有効回答数は54通だった(回収率 21.7 %)。 調査時平均年齢は23.6歳で、女性が22名(40.7%)だった。併存疾患があった参加者は25名(46.3%)対象者だった。高い不安得点を示したのは10名(19.6%)で、心的外傷後ストレス症状を呈した対象者は4名(6%)だった。人間ドックの受診に消極的だったのは、23名(42.6%)だった。 人間ドック受診に対し、消極的な態度を示す対象者は、心的外傷後ストレス症状や不安が高く、ヘルスリテラシーが高いと仮定し、解析を行った。人間ドック受診に対する消極性と、心的外傷後ストレス症状や不安、ヘルスリテラシーとの統計学的に有意な関係はなく、仮説は否定された。小児がん生存者のなかで、男性で、診断後年数が経過した者が、人間ドック受診により消極的だった。 これらの解析結果から、予定していた前向き研究を、介入研究に変更し、介入方法を検討した。晩期合併症や、生活習慣病、がんの発症が早まること、診断と治療により、長期に心理社会的問題を起こすことがあることなどについて、情報提供し、小児がんサバイバー同士で話し合いをもつ時間も設ける予定である。
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