研究課題/領域番号 |
18K09970
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
北出 順子 福井大学, 学術研究院医学系部門, 講師 (80509282)
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研究分担者 |
長谷川 美香 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (90266669)
米澤 洋美 福井大学, 学術研究院医学系部門, 准教授 (10415474)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 保健師 / 健康づくり / 近代 / 地域住民との協働 / 国保保健婦 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本の戦中期から戦後に至る公衆衛生政策と、政策の変化がもたらした保健師の役割、及び政策によって変化させられた中にも存在した地域住民と国保保健婦との協働関係を、歴史社会学の手法にて解明するものである。 2019年度は前年度に引き続き、第一の課題である「日本の戦中~戦後期における保健婦の活動に焦点を当て、地域住民と保健婦の協働関係を明らかにすること」、及び第二の課題である「戦中~戦後期における住民と保健師との関係と変化を明らかにする」ことに取り組んだ。まず、前年度に残した課題である、農村における住民の暮らしと、国保保健婦の役割根拠となるものを『国民健康保険法案概要(昭和12年)』と『国民健康保険の話(昭和12年)』を分析し、抽出した。この結果、都市部と農村部では医療に偏りがあったこと、国民健康保険法は相互扶助の精神が存在する農村社会の仕組みに即したものとして作られていたことが明らかとなった。 次に、保健婦規則制定前後における、当時の保健婦の教科書ともいえる教本の分析を行った。用いた資料は『社会保健婦(昭和15年)』と『日本の保健婦(昭和18年)』である。以下のことが明らかとなった。昭和15年当初は保健婦の任務として訪問指導という項目が設けられ、妊産婦・乳幼児・病者に対して指導を行うこと、訪問看護を実践すること、農村においては助産婦をも兼任すること、患者の家の消毒や屍体処置等を行う旨が記載されていた。保健婦の対象者は家庭を訪問し、上述の対象者やその家族に対して指導を行なっていたことが明らかとなった。一方昭和18年は、一転して訪問指導という見出しが全て「保健指導」という表記になっていた。この時代に入ると家庭での個別指導に加えて、様々な地域組織を活用して集団に対して保健指導を行う技術が確立してきたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
国保保健婦と地域住民との協働関係に焦点を絞り、史料収集と分析を行っている。本研究は戦前・戦中期及び戦後直後の貴重な文献を資料とするため、国立国会図書館など貴重文献を有する図書館に出向くことが必要である。しかし新型コロナウイルス感染症防止施策により、図書館の休止期間が続いており、十分な資料収集が中途になっている。 また、歴史社会学の手法による資料収集及び分析に関しては、前年度から引き続き医学史研究会に定期的に参加し、知見を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は戦後期に国保保健婦が行った健康づくり活動の内容と、住民との関係を明らかにすることにより、市井の人々の公衆衛生史を再構築することを目的としている。次年度の推進については以下の通りである。 ① 資料分析の対象を戦前・戦中期より戦後期に広げ、地域住民の暮らし及び国保保健婦活動に関する分析を進める。 ② 公衆衛生に関する歴史社会学を専門とする研究協力者との検討会を今年度に引き続き開催し、助言を得る。 ③ 国保保健婦経験者へのインタビューを実施し、実際の活動を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度末からの緊急事態宣言により、国立国会図書館等への移動が不可能になった。このため資料収集が遅れており、これに伴い当初予定していた旅費及び資料収集・分析に必要となる経費が次年度にずれこむこととなった。 2020年度は様子を見ながらにはなるが、引き続き、特に資料収集が遅れている戦中期・戦後直後の国保保健婦及び当時の地域住民の暮らしに関する資料の収集と分析を行う。また、国保保健婦経験者へのインタビューを予定しているため、旅費及び謝金を使用する予定である。
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