新型コロナ感染症の影響で、微生物検体の遺伝子解析が予定通りに進展しなかったため、研究期間を延長して実施した。 2023年度は、島根大学医学部附属病院で検出された大腸菌のうちESBL産生菌30株を用いて、薬剤耐性判定、POT型解析、遺伝子解析を実施した。分離されたESBL産 生大腸菌は世界的なESBL産生大腸菌蔓延の要因となったST131株が2013年は75%を占めていたが、2021年からは再びST131が増加して、2022年度と同様に2023年度も50%を超える割合となっていた。島根大学医学部附属病院および高木病院におけるESBL産生菌の検出状況をみると、検出数が増加傾向にあり、特に院外からの持ち込みの増加が観察されている。 また、ST131株の減少により、大腸菌のフルオロキノロンの感受性は回復していたが、ST131株の増加にともない、耐性率の上昇が継続して観察され、フルオロキノロンの適正使用の推進の必要性がさらに増していることが示唆された。実際のキノロン系抗菌薬の使用動向を見てみると、耐性率の増加に明らかな相関は観察されなかったものの、使用量の増加が認められたことから、今後も外来での使用も含めて、フルオロキノロンの使用動向および適正使用状況を注視していくことが重要であることが示唆された。されに、福岡県および島根県の2次医療圏における抗菌薬使用量の経年変化を明らかなったことから、島根県と福岡県におけるAMR対策に重要な要因が明確になった。これらの結果をふまえ、AMR対策シミュレーションモデルを構築を試みたが、新型コロナ感染症の影響を加味した数理モデル構築は困難であり、さらなる研究継続の必要性が示唆された。
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