1991年、Guyattらにより、「科学的根拠に基づく医療 (Evidence Based Medicine: EBM)」が提唱されて以来、EBMは世界の医療の主流をなしている。1998年にGreenhalghらが、「物語と対話に基づく医療 (Narrative Based Medicine: NBM)」を提唱し、EBMとNBMは「患者中心の医療」を実践するための「車の両輪」に例えられるが、EBMの普及に比べ、NBMの臨床における実践手法、教育手法は十分に認識されておらず、研究報告も少ない。また近年、医師のプロフェッショナリズムが注目され、これまでの知識・技術偏重の医学教育への反省から、態度教育の重要性が論じられるようになった。その中で、我々は、医師がもつべき基本的能力として「物語能力(narrative competence)」に着目した。本研究の目的は、優れた「物語能力」をもつ医師を育成する教育プログラム開発のために、医学生、臨床研修医の「物語能力」に影響を及ぼす要因を、量的および質的研究にて明らかにすることである。 総合内科での選択臨床実習(基本実習を終えた5-6年生2-4名、4週間)において、「ナラティブトレーニング合同実習」「パラレルチャート」を実施した。2020年度は7回実施した(計21名の医学生が参加)。実習終了後にはアンケートを施行した。アンケート結果より、実習後で自己と他者の違いを認識し、多様性を受容するだけでなく、実習が自己を省察する機会となっていた。また疾患(disease)、病い(Illness)の2つのアプローチのうち、実習が後者のアプローチにつながっている可能性が示唆された。
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