研究課題/領域番号 |
18K10005
|
研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
矢野 貴久 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 准教授 (90532846)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 薬剤耐性菌 / 抗菌薬 / 抗菌薬適正使用 / 手指消毒薬 / 感染制御ネットワーク / 母集団薬物動態解析 |
研究実績の概要 |
薬剤耐性菌ならびに耐性菌感染症への対策は、国際社会における大きな課題の一つであり、我が国においても、2016年4月に決定された薬剤耐性(AMR)対策アクションプランや平成30年度の診療報酬改定にて新設された抗菌薬適正使用支援加算に基づき、多くの医療機関において抗菌薬適正使用支援チーム(AST:Antimicrobial Stewardship Team)による活動や、抗菌薬の適正使用への取り組みが実施されている。本研究では、組織、環境、抗菌薬使用に着目し、地域の医療機関を含めた薬剤耐性菌の制御や薬剤有害事象の低減を目的とした。 2019年度においては、島根県院内感染制御ネットワークでの活動の拡充を図り、同ネットワークに参加する24の医療機関を対象として、抗菌薬や手指消毒薬、耐性菌に関するサーベイランスを実施すると共に、各施設のAST活動の実施状況について調査を行った。 抗菌薬サーベイランスにおいて、回答が得られた17施設の2019年度の抗菌薬使用量AUD(DDDs/1000bed days)の中央値は71.6、最大値は238.6、最小値は27.4であった。感染防止対策加算1を算定する10施設のうち8施設で抗菌薬適正使用支援加算の算定を開始していたが、業務時間の不足や人員や人材の不足が深刻であり、医師、薬剤師、看護師、臨床検査技師のいずれの職種においても負担が大きいことが明らかとなった。また、抗菌薬の使用量と耐性菌との間に有意な相関は認められなかったものの、抗菌薬と共に手指消毒薬の適正使用を推進することが、薬剤耐性菌への対策として有用である可能性が示唆された。 一方、抗菌薬の母集団薬物動態解析によって薬物動態パラメータの評価や新規モデルの構築を行った結果、それらの活用によって小児におけるバンコマイシンやゲンタマイシンの有効性や安全性が向上することが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は、島根県院内感染制御ネットワークでの活動強化を図り、島根県の24の医療機関を対象とした初めてのサーベイランスを実施することで、地域における抗菌薬や手指消毒薬の使用量、耐性菌の検出状況を明らかにした。また、2018年度の診療報酬改定にて新設された抗菌薬適正使用支援加算への各施設の対応状況や活動内容を調査し、課題点を把握した。さらに、患者への抗菌薬投与について母集団薬物動態解析によって、個別化投与による適正使用の推進や有害事象低減のための新たな知見が得られた。 一方で、地域での医療連携支援システムの構築については実施するに至らず、当初の計画よりもやや遅れが生じている。
|
今後の研究の推進方策 |
研究代表者が2019年1月1日付で九州大学から島根大学へ異動したことに伴い、島根地域や山陰地域を含めた研究へと拡充を図っている。今後も島根県院内感染制御ネットワークなどの組織活動の強化に取り組むと共に、連携研究者である九州大学病院グローバル感染症センター長の下野信行とも協力することで、従来の福岡地域や九州地域を対象とした研究と併せて実施する。特に、医療連携支援システムの構築や環境整備、薬剤耐性に関わる抗菌薬選択圧や環境因子の解明、対策法の確立については、地域の特徴や特性に鑑みて実施する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度においては、データ処理を自身で行ったことで外部委託費用の支出がなく、また耐性菌の感受性試験等を実施せず、消耗品費の一部を支出しなかったため、生じた残額を次年度に繰越して使用することとした。繰越し分については次年度分として請求した助成金と併せて、当初の計画の通り、耐性菌や環境整備の研究に関わる費用や成果発表費用として使用する。
|