薬剤耐性菌や耐性菌による感染症への対策は世界的な課題である。我が国でも薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016-2020)に基づき、抗菌薬適正使用への取り組みが実施されている。本研究では、組織、環境、抗菌薬使用に着目し、地域の医療機関を含めた薬剤耐性菌の制御や薬剤有害事象の低減を目的とした。 2022年度は、島根県院内感染制御ネットワークに参加の24医療機関を対象とした抗菌薬・手指消毒薬・耐性菌のサーベイランスを実施し、2019年度からの年次推移を評価することで、地域における薬剤耐性菌や抗菌薬使用量の動向を明らかにした。抗菌薬サーベイランスには16施設の参加があり、2022年度調査抗菌薬使用量AUD(DDDs/1000bed days)の中央値は105.0、最大値は199.7、最小値は32.6であった。2021年度調査17施設のAUDの中央値80.4、最大値275.2、最小値26.6と比べてさらに増加の傾向が認められた。一方、抗菌薬や手指消毒薬の使用量と耐性菌との相関を評価した結果、抗MRSA薬の使用量とMRSA検出割合との間に有意な負の相関が認められた。また、カルバペネム系薬の使用量変化と緑膿菌のメロペネム耐性率変化には正の相関傾向が認められた。手指消毒薬の使用量は過去4年間で顕著に増加し、新型コロナウイルスへの対策の影響が考えられた。手指消毒薬の使用量が多い施設ではMRSAやESBL産生大腸菌の検出割合が低かった。地域における薬剤耐性菌の制御や感染制御策の推進に有用な知見が得られた。 一方、抗菌薬の母集団薬物動態解析によって投与法の適正化を検討した結果、リネゾリドによる血小板減少症のリスク低減のためのPK/PDシミュレーションや、小児患者におけるアンピシリン/スルバクタム配合剤の個別最適化投与法の確立に至り、有効性や安全性の向上に寄与することが示された。
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