医師の専門的職業人としての利他的価値観や内面化された行動規範、社会性、自律性で示されるプロフェッショナル・アイデンティティの獲得 Professional Identity Formation(PIF)は、医学教育・研修の目指すべき目標として注目されている。本研究では医師育成に適応可能なKeganのらせん型発達モデルを基盤と して、プロフェッショナル・アイデンティティを評価する複数の尺度(発達度の評価尺度Developing scale DS、各ステージの資質を評価する尺度Stage- specific attribute scales SASs)を開発し、臨床実習前後の医学生、研修医、若手医師、指導医を対象とした無記名自記式アンケートの調査によるクロス・ セクション分析を行い、各グループのprofessional Identityの状況と、PIFに影響する個人および教育環境因子を明らかにすることを目的とした。 2020年度までに本研究で開発したDS及びSASsの各スコア、PIFに影響する因子として臨床実習、研修での医師としての対人関係、支援、ロー ルモデル、重大な経験に関するアンケート項目、指導医の臨床経験年数、ポジション、PIFに関する経験の自由記載を収集し、教育・研修過程におけるPIの変化 並びにPIFに関連する因子を解析した。研修医、指導医を対象とした調査ではDSスコアは臨床経験年数と有意な関係があり、臨床経験30年以上の群で最も高く、PIFは研修研修終了後も長期に続く過程であることが示唆された。PIFに関わると記載された経験、特に臨床経験や診療の現場での経験とSAS各スコアとの有意な関係が明らかになり、学習者の経験、ステージによってPIFに影響する経験に相違があることも示された。2021年度はこれらの成果を国際学会で発表し、論文にまとめ投稿した。
|