我が国の自殺者数は約2万人であり、交通事故死亡者数の8倍以上である。自殺者の8割以上がうつ状態であったという報告もある。このようなうつ状態の患者の割合は、内科診療所受診者の5.5~64%に上る。また、自殺者の45%が自殺前の1か月間に、自殺者の77%が自殺前の1年以内に、内科(プライマリーケア医)を受診していたという報告もある。内科ではうつ状態が見逃されることが多く、内科診療所の医師は自殺のリスクの高いうつ状態の患者を日常的に診察していることをほとんど意識していない。 そこで、我々がこれまでに明らかにしたうつ状態の関連因子を用いて、初診時に「うつ状態のリスク評価」を行う。そして、うつ状態、および希死念慮等の発症に対する「うつ状態のリスク評価」の効果を算出する。研究対象は、内科診療所の初診患者、または過去半年以上受診していない患者で、35歳から64歳の者とする。慢性疾患などで常に通院している人を除くため対象者を限定する。該当者に順に調査に関する説明を行い、同意が得られれば対象者として登録し、登録時調査を実施する。登録時調査では、対象者から性別、年齢、身長、体重、教育歴、飲酒、喫煙などの情報、既往歴、入院歴、治療中の病気、うつ状態の程度、希死念慮等についての情報を収集する。 新型コロナウイルスの度重なる流行により、調査を行う予定であった内科診療所では、通常業務に加え、感染症対応などが加わり、業務量が大幅に増加した。また、新型コロナウイルスの流行時期および流行の程度については事前予測が不可能であった。新型コロナウイルスの最流行期、流行期、非流行期では収集した情報の質に偏りが生じる可能性があり、研究の妥当性にも影響するため、研究実施は極めて困難であった。研究期間のさらなる延長も検討したが、研究代表者が他機関に異動することになり、研究継続不能となったため、研究終了とした。
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