研究課題
ラドン・トロンの高潜在地域の特定のために、可搬性に優れ、いかなる測定環境にも対応可能かつ短時間で散逸率の評価ができる測定を開発する。本年度は、昨年度に地元企業の協力を得て製作した可搬型測定器の特性を室内実験によって評価した。製作した測定器は野外観測で用いるため、計数値の温度特性を評価するため恒温槽内に測定器を設置した。室内の温度を5, 10, 20, 30, 40度になるように調整し、アメリシウム-241標準線源を用いて計数値を測定した。その際、線源と検出器との距離によって幾何学的効率が変わるため、アクリル板を用いて治具を作成したアメリシウム-241標準線源の放射能と昨年度評価した計数効率から計数値が10,000カウントを超える測定時間を推定し、測定時間を1分間とし、それぞれの温度で30回の測定を行った。得られた結果から、計数値に対する温度補正係数を得た。計数値から散逸率への換算係数の評価を室内実験によって評価した。実験に用いる土壌には、採取した花崗岩風化土壌を用いた。トロンの半減期が短いことから散逸率に影響する土壌の至適厚さを理論計算と実験で評価した。その結果、5cm以上であれば地表面からのトロン濃度は充分に飽和するため、試料容器の大きさを考慮して8cm深とした。製作した測定器を実験土壌に設置し、30秒間隔で30分間の測定を実施した。さらに、既存のラドン・トロンモニタと蓄積容器を用いて30分間隔で3時間の測定を行った。得られた実測結果を用いて計数値からトロン散逸率への換算係数を評価した。さらに、製作した測定器で得られる計数値の変化について理論計算を行い、トロン散逸率を推定した。
2: おおむね順調に進展している
本年度の計画では、計数値からラドン・トロン散逸率の換算係数を評価した。既存のモニタを用いて実測によって得られたトロン散逸率と製作した測定器で得られた計数値の変化を用いた理論計算によって評価した散逸率が異なったため、その要因について検討することを優先したため計画を若干修正した。ラドン・トロン散逸率の基準測定器には既存のラドン・トロンモニタを用いている。このモニタによってラドン・トロン散逸率の評価をするためには、ラドン・トロンガスの蓄積容器とモニタとをポンプを介して接続し、連続的に蓄積容器内のラドン・トロン濃度を測定する。その際、土壌試料から放出するトロン濃度はポンプの流量に大きく依存することが明らかになった。その要因として、1)サンプリング流量の増加による土壌試料表面からのトロンの強制排出、2)既存のラドン・トロンモニタのサンプリング流量依存性の2点を考えた。そこで、これらの影響を評価するための実験を行った。このように計画の変更は行ったものの、新たな知見を得ることができ、次年度の研究につなげることができた。
次年度は、優先事項として本学に設置されているラドン ・トロン較正場を用いて、本研究で基準器としているラドン・トロンモニタで得られるラドン・トロン濃度に対するサンプリング流量の影響について検討を行う。もし、サンプリング流量依存が認められた場合、本年度に取得したデータの補正を行う等の適切な処理を行い、再度換算係数の検討を行う。その後、国内において本年度実施予定であった野外観測によってトロンのみでなくラドン散逸率への換算係数の評価を実施する。最終年度であることから、当初の計画にあったインドネシアの高自然放射線地域での調査に応用するように計画的に進めていく予定である。
本年中に国内各所において野外調査を実施する予定であったが、研究室内において追加実験を行う必要が生じたため、青森県外での野外調査を実施しなかった。室内実験で必要な物品については概ね研究室内にあるもので対応できた。そこで、本年度実施予定の野外調査を次年度に実施するため、次年度使用額が生じた。
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Journal of Radiological Protection
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https://doi.org/10.1088/1361-6498/ab73b1
保健物理
巻: 54 ページ: 226-230