研究課題/領域番号 |
18K10027
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
七條 和子 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 助教 (90136656)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 内部被ばく / 分子病理学 / マイクロドジメトリー |
研究実績の概要 |
福島原発事故後9年を迎えた日本では、放射線の作用が腫瘍発生・腫瘍制御に関する研究の中で最も関心事となりその基礎的研究の重要性が増している。本研究の目的は、体内残留放射能が内部被ばくとして人体に及ぼす影響を分子病理学的に検出し、組織細胞のマイクロドジメトリーとの関連を検討すること(Patho-マイクロドジメトリー)である。 私達は長崎原子爆弾のPu-239由来α粒子飛跡を近距離被爆者の病理標本上に確認しており、それをもとに内部被ばくの科学的証拠を初めて示し、論文発表した。現在の評価法では、被爆者の最も高い骨髄組織吸収線量は0.560 mGy/y, 生存期間68日における累積線量は0.104 mGyとごく僅かで、人体に影響する値ではないと考えられた。今回、α粒子飛跡周辺細胞では、粒子が細胞核を通過する際の局所的線量は高線量(血管内皮細胞で3.89Gy、肝実質細胞で1.29Gy) と算出された。内部被ばくは生物学的半減期・物理学的半減期によって被爆後人体内から急速に減衰することから生存被爆者で残存放射能を検出することは不可能である。 原爆からの中性子線で放射化された物質のうち内部被ばくで主要なものとして放射性Mn-56 が特定されている。「広島原爆において入市1日目の入市被爆者の死亡率が高い。」という疫学的データーがあるが、放射化された土中の MnO2 微粒子が大気中に多量に舞い、これを吸い込むことで早期入市者に内部被ばくが引き起こされたと考えられる。日本では放射線管理上の理由で実験が困難なためカザフスタン国立核研究センターの IVG.1M 原子炉で照射を行い、得られた放射性 MnO2 をラットに暴露する実験を行った。今後は、この内部被ばくラット組織内に沈着するMnO2粒子近傍のβ線吸収線量を指標として遺伝子不安定性分子病理マーカーの探索を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)セメイ医科大学(カザフスタン)と共同研究で内部被ばく線量を変えた実験(Mn-56x1, x2, x3)を行い病理標本採取した。既存のラット内部被ばく病理標本の画像データーベースを作り解析した。MnO2を放射化して得たMn-56微粒子を曝露した各臓器の内部ひばくによる被曝吸収線量推定値は、全身0.14Gy、小腸1.48Gy、肺0.11Gy、他の臓器ではそれ以下であった。気腫、出血、炎症が6時間から180日後まで引き続き、180日後には高度の炎症細胞浸潤と肺炎、無気肺、肉芽腫、高度の出血など重篤な所見が認められた。60Co-2Gy外部照射群ではこれらの所見は認められなかった。線維化について特殊染色を行った。 2)Patho-マイクロドジメトリー;遺伝子不安定性マーカーとしては、3種のマーカー;DNA修復系タンパク質53BP1、H&E染色による細胞核異型、TUNEL法による DNA障害アポトーシス細胞を観察した。分子病理学的定量解析の結果Mn-56内部被ばく群では、肺にアポトーシス細胞が見られた。 3)56MnO2 沈着肺病理標本におけるSR-XRF-XANES解析(synchrotron radiation X-ray fluorescence spectrometry and X-ray absorption near edge structure; 放射蛍光X線分析法とX線吸収微細構造; 照射X線の内殻電子励起による吸収による元素分析)を行い、Fe元素と共存するMn2+ を標本上に同定した。周辺組織部位は病理学的には血痰と壊死組織であった。放射性Mn56 微粒子の吸収線量は、主にβ線によるもので、微粒子径 5μmで粒子表面線量が 8.05Gy、 10μm で 15.5Gyと算出された。 以上、国際学会発表し論文投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
1)平成30年度に行った内部被ばく実験のラット内部被ばく病理標本を収集し、今までの実験と同様に、53BP1などの遺伝子不安定性マーカー蛋白、および病理所見を指標とする画像のデーターベースを作る。肺標本における今までの観察と同様に腸標本についても行いたい。 2)Patho-マイクロドジメトリー;遺伝子不安定性マーカーとしては、3種のマーカーの観察を続け、新たなマーカーの探索を行う。一方、病理所見(気腫、出血、炎症、線維化)についての精査を行う。肺気腫の進展、出血の機序について、人体病理で認められる放射線性肺臓炎と照らし合わせた検討を行う。得られたラット標本の放射性Mn-56沈着組織周辺の細胞における Patho-マイクロドジメトリーの結果を踏まえて、人体病理との関連性について再考察する。これらを集積し、分子病理学的に定量解析を行い、学会、論文で公表したい。 3)当初の動機となったMnO2 微粒子径の大きさで被ばく線量が異なることに着目した実験系;微粒子径を従来の 5μm に加えて10μm の Mn-56 ball を用いた実験については、海外共同研究者を通じた実験計画への参画が必要であるので、実績作りと信頼性を確認するために今までのデーター収集と論文公表に全力を尽くす。遺伝子不安定性マーカー53BP1等の核内フォーカス発現を指標とした分子病態への影響について、内部被ばく線量依存性を Patho-マイクロドジメトリ-を基に検討する。さらに、明らかになったラット標本における局所的高線量被曝と放射性Mn-56沈着組織周辺の細胞における傷害をとらえたPatho-マイクロドジメトリーの結果を踏まえた新知見から見える“人体病理との関連性”について放射線災害などを見据えた考察を行い、学会、論文等により公表したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
カザフスタン2月出張(用務:カザフ旧ソ連核実験場放射線被曝における共同実験研究発表と動物実験打ち合わせ、用務地:カザフスタン、ヌルサルタン、アルマテイ、用務先:ナザルバイエフ大学、アルマテイ核実験場)の外国旅費を予定していたが、新型コロナウイルスの影響により、今年度は出張を取りやめた。また、論文校閲費および論文投稿費を予定していたが、今年度は、まだ、データー解析および論文作成中で完成出来なかったので次年度使用額が生じた。 次年度は、遺伝子不安定性マーカー検出のために消耗品費に使用予定であり、研究の充実を図りたい。さらに、論文校閲費および論文投稿費に使用して論文を完成させ公表する。
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