キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤バロキサビルは、日本国内で開発された抗インフルエンザ薬で、世界に先駆けて日本で承認され、その後70ヵ国以上で承認されている。一方で、バロキサビルの臨床試験では、薬剤感受性が低下した耐性変異ウイルスが検出されており、耐性変異ウイルスの発生状況を迅速に把握し、自治体および医療機関に速やかに情報提供することは公衆衛生上極めて重要である。そこで、バロキサビルに対する耐性変異ウイルスの検出系を構築し、耐性変異ウイルスの監視体制を確立するのが本研究の目的である。
本研究では、バロキサビルに対するインフルエンザウイルスの感受性を測定するために、Plaque reduction assay、CPE reduction assayならびにFocus reduction assay(FRA)の3系統を構築した。このうち高感度で迅速なスクリーニングが可能なFRAを用いて国内流行株の解析を行い、バロキサビル耐性変異ウイルスのヒトからヒトへの感染伝播を世界で初めて検出した。また、高病原性鳥インフルエンザの発生が国内外で多数報告されたため、FRAを応用し国内で分離された鳥インフルエンザウイルスの薬剤感受性について監視体制を整えた。さらに、人獣共通感染症を引き起こすと考えられているC型およびD型インフルエンザウイルスについてもFRAを応用し、代表株に対するバロキサビルの有効性を確認した。
新型コロナウイルス感染症の流行により季節性インフルエンザの流行がなくなった期間には、FRAをSARS-CoV-2に応用し、RNAポリメラーゼ阻害剤、3CLプロテアーゼ阻害剤、抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体に対する感受性についても高感度かつ迅速なスクリーニングを可能にした。
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