研究課題/領域番号 |
18K10041
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研究機関 | 神戸市環境保健研究所 |
研究代表者 |
岩本 朋忠 神戸市環境保健研究所, 感染症部, 部長 (70416402)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Mycobacterium avium / 抗酸菌 / 肺MAC症 / 遺伝型別 / 系統分類 / 感染源 / 遺伝的多様性 / 非結核性抗酸菌症 |
研究実績の概要 |
本研究の主目的である「浴室環境がNTM感染のホットスポットなのか?」という問いに答えるため、全国規模での浴室環境サンプリングを実施している。特に、肺NTM症の主要な起因菌であるMycobacterium avium subsp. hominissuis (MAH)に着目した。本研究では、サンプリング対象を健常人浴室環境とすることで、患者からの菌の持ち込みによる影響を最低限に抑えた。 サンプリング家庭数は現在までに180家庭を超えており、各家庭から、シャワー水と浴槽取水口拭き取りサンプルを回収している。分離培養による結果から、MAHの検出率は16.1%であり、浴室環境は、MAHの主要な生息地であることが明らかとなった。また、その分離率には地域差が認められ、近畿地方、関東地方では25%を超えた。一方、北海道、東北、九州地方では10%以下であった。 次に、健常人浴室から分離されたMAHとヒト臨床分離株との遺伝的関連性を反復配列数多型解析により調べた。その結果、健常人浴室由来株は、日本人患者由来株と遺伝的関連性が高く、浴室環境は臨床的に意味のあるMAH株が定着しやすい環境であることを明らかにした。さらに、河川表層水、土壌からのMAH分離を試み、3河川から17株、2土壌から5株のMAHを分離した。ブタ由来株、ロシア人患者由来株、韓国人患者由来株を加え、MAHの遺伝的多様性を調べたところ、我が国には、ヒト臨床分離株で多くみられるクローナルコンプレックスに属する株に加えて、自然環境中には、ロシア人臨床分離株やブタ由来株で形成されるクローナルコンプレックスに属する株も存在することが明らかとなった。遺伝的に多様なMAHのうち、特定の遺伝型に属するものが日本人患者と浴室環境には優占するという知見は、浴室環境がMAH感染のホットスポットの一つであることを強く支持するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、全国規模でのサンプリングを順調に行っており、本研究の基盤となる環境サンプルからの抗酸菌分離菌株の収集が進んでいる。 環境由来分離菌株の収集が順調に進んでいることから、その後の、遺伝的多様性解析、並びに、肺MAC症の起因菌であるM. avium subsp. hominissuisの生息環境をヒトの生活様式との関連性から解明するという本研究課題の命題に関する基礎データの蓄積がスムーズになされている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、全国規模での浴室環境サンプリングを継続し、我が国の浴室環境に定着しやすい抗酸菌種の特徴を明らかにする。 収集した菌株の全ゲノム解析を行い、ヒト臨床分離株とのゲノム比較から、MAH菌がヒトに定着する(起病性)ための機構を担う責任遺伝子の特定を目指したい。 さらに、本研究課題を通じて収集している環境サンプルについて細菌叢メタゲノム解析を実施し、MAH菌が定着する存在下で共存する微生物群集の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度実施予定であった次世代シーケンス解析を、サンプルの準備が不十分であったため次年度に実施することにした。本年度繰り越し金と次年度助成金は、引き続きサンプリング用経費と分子生物学的実験用の消耗品、並びに、次世代シーケンス解析に使用する。
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