研究課題/領域番号 |
18K10041
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研究機関 | 神戸市環境保健研究所 |
研究代表者 |
岩本 朋忠 神戸市環境保健研究所, 感染症部, 部長 (70416402)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Mycobacterium avium / 非結核性抗酸菌 / 浴室環境 / バイオフィルム / シャワー水 |
研究実績の概要 |
本研究の主目的である「浴室環境がNTM感染のホットスポットなのか?」という問いに答えるため、全国規模での浴室環境サンプリングを行い、非結核性抗酸菌の環境常在性を立証するとともに、分離菌種の多様性や地域差の解明を目指している。 研究開始初年度と今年度の2年間で、全国256家庭からシャワー水とバイオフィルムを収集し、抗酸菌の分離培養を行った。73.6%の家庭から非結核性抗酸菌が分離され、浴室環境内への常在性が立証された。 高頻度で検出された菌種は、Mycobacterium gordonae (56.5%)、M. lentiflavum (22.8%)、M. avium (17.9%)、M. mucogenicum (15.0%)であった。浴室内のサンプリングポイント別に検出率を見ると、M. lentiflavum やM. mucogenicumはシャワー水から、M. avium、M. gordonae、M. fortuitumは給湯口のバイオフィルムから検出される傾向が認められた。地域別に検出率を見ると、北海道(34.8%)や東北地方(55.2%)では低く、関東地方(94.3%)や中部地方(91.7%)で高い傾向が認められた。NTM症の主要な起因菌であるM. aviumは全地域で検出され、特に関東地方(28.6%)や近畿地方(21.7%)で検出率が高かった。 健康者家庭の浴室サンプルを用いた本結果は、患者浴室環境を対象とした先行研究での問題点、すなわち「患者による浴室環境内への菌の持ち込み」の影響を受けない結果であり、今後の衛生対策における貴重な基礎データとなり得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、全国規模でのサンプリングを順調に行うことができ、浴室環境のシャワー水とバイオフィルムから、多種多様な抗酸菌が分離できた。また、収集したシャワー水、バイオフィルムからの核酸抽出を行い、現在、凍結保存している。 環境サンプリングの収集が予定通りに進んだことで、次年度の遺伝子解析、ゲノム解析をベースとした研究への土台が固まった。
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今後の研究の推進方策 |
家庭内環境への非結核性抗酸菌の定着の根源となる自然環境中の多様性を明らかにし、浴室環境との比較を行う。そのために、河川表層水中の浮遊菌としての抗酸菌と自由生活性アメーバーに寄生すると考えられている抗酸菌について共生関係の実態を含めて解析を行う。 また、本研究課題を通じて収集したシャワー水、バイオフィルムから抽出したDNAを用いて、細菌叢メタゲノム解析を実施し、非培養法での各環境下における細菌叢の比較、並びに、特に臨床上問題となる菌種の存在と細菌叢との関連性を解明する。 さらに、今回、健常者の浴室由来の非結核性抗酸菌が分離できたことから、臨床分離株と合わせてゲノム情報学的な解析を行うことで、非結核性抗酸菌がヒトに定着する(起病性)ための機構を担う責任遺伝子の特定を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度実施予定であった次世代シーケンス解析を一部サンプル準備不足のため、次年度に実施することにした。本年度繰越金と次年度助成金を合わせて、分子生物学的実験用の消耗品、並びに、次世代シーケンス解析に用いる。
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