本格的な高齢化社会を迎えたわが国では、高齢者の生活習慣病に対する「身体にやさしい」治療法の開発が求められている。死因第1位の「がん」に対しては、手術・抗がん剤・放射線治療のように副作用の多い根治を目指した治療法ではなく、「身体にやさしい」治療により、Quality of Life (QOL)を長く維持するという視点が重要である。 これまでのがん治療では、がんを急性疾患とみなし、手術や抗がん剤治療は急性疾患の治療方針にならって進められてきた。すなわち肉眼的に見える範囲のがん病巣を手術により取り除き、重篤な副作用が現れない限界の濃度で抗がん剤を一気に投与する。このような治療では、がんは縮小しても体力のない高齢者には副作用が強く表われ、QOLの低下も著しい。また再発した場合の予後は一般に不良である。 本申請研究では、生活習慣病である「がん」に焦点をあて、天然由来物質を用いた高齢者にやさしい治療薬開発の基礎的研究を行った。ホルモンでありサプリメントとしても使用されているmelatoninは shikoninの抗がん作用を増強することを見出し、その分子機構を明らかにした。またmelatoninは活性酸素の発生とJNK活性化を介して、ヒ素化合物phenylarsine oxideの抗がん作用を増強することを報告した。新たな甲状腺ホルモンアナログ(TA)を合成し、TAのヒトリンパ腫細胞に対する抗がん作用について検討した。その結果TAはアポトーシス誘導作用を有すること、その分子機構として小胞体ストレスとオートファジーを介したものであることを明らかにした。
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