研究実績の概要 |
様々な癌において、発癌に本質的に関与しているドライバー遺伝子としての融合遺伝子が数多く発見され、その発見を端緒に分子標的治療薬の開発につながった例もある。 近年では、悪性中皮腫においても2例において、RNA-seqによって、EWSR1-YY1融合遺伝子が同定された(Panagopoulos I, et al., Genes Chromosomes Cancer 52:733-740,2013)。2例とも、切断点の局在がほぼ一致していることから、特定の発癌機構が関与していることが考えられている。我々は、EWSR1-YY1融合遺伝子以外にも悪性中皮腫の原因候補となる融合遺伝子がないか探索すべく、細胞株を対象にしてRNA-seq解析を行った結果、Podoplanin(PDPN)、MET、STAT3遺伝子が関与する新規融合遺伝子を同定していた。PDPN、MET、STAT3の3遺伝子は、悪性中皮腫で高頻度に活性化されていることが既に報告されている。特に、PDPNは治療の標的分子になることが期待されている (Krishnan H, et al., Cancer Sci 109:1292-1299,2018)。 ヒト癌細胞株のデータベースであるCancer Cell Line Encyclopedia (CCLE)で調べても、PDPN、MET、STAT3が高発現している悪性中皮腫細胞株が複数認められた。また、このデータベースにおいて、PDPNが関与する融合遺伝子を有する癌細胞株は見いだされなかったが、MET、STAT3が関与する融合遺伝子を有する癌細胞株は、それぞれ24株と6株あることが明らかになった。従って、上述のPDPN、MET、STAT3が融合遺伝子形成によって恒常的に活性化され、悪性中皮腫の発生や進行に関わっていることは十分に考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
PDPN、MET、STAT3の3遺伝子については、融合遺伝子によらず、コピー数の増加で高発現し、悪性中皮腫の発生に関与していないか検索してみる。また、PDPN、MET、STAT3以外の遺伝子による融合遺伝子が、悪性中皮腫の発生に関与していないか、データベース等によって検証する。216例の悪性中皮腫検体をRNA-seqで網羅的に解析した結果では、NF2、BAP1、SETD2が関与する複数の融合遺伝子が同定されている (Bueno R, et al., Nat Genet 48:407-416,2016)。これらの遺伝子については特に着目する。
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