研究課題/領域番号 |
18K10052
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
望月 仁志 宮崎大学, 医学部, 講師 (50501699)
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研究分担者 |
菱川 善隆 宮崎大学, 医学部, 教授 (60304276)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ヒ素中毒 / 末梢神経障害 / 聴覚障害 / 神経生理 / 感覚障害 |
研究実績の概要 |
砒素と人類との関係は紀元前から始まる長い付き合いであるにもかかわらず、砒素中毒症状とその経過については不明な点が多い。宮崎県高千穂町土呂久地区住民は1962年まで数十年にわたり鉱山からの高濃度砒素曝露を受けた。宮崎大学は、この地区の住民検診にて神経学的診察および神経生理検査を40年以上実施している。今回の研究の目的は、得られたデータを分析し、長期経過後の後遺症を分析する。また、主症状である末梢神経障害および未検証である高次機能障害について神経生理学的アプローチにより前向きに病態を解明することである。一方で、もう一つの目的は、当申請者は中・低濃度砒素汚染地域の一つであるミャンマーにおいて住民の診察を実施してきた。その中で、なんらかの中毒症状が出現していても、気づかれずに潜在している住民が多数存在した。ミャンマー国の慢性砒素中毒患者を通じて中・低濃度慢性砒素中毒症の病態を明らかにすることである。 この数年のミャンマーにおける検討では、末梢神経に関しては10ppb以上のヒ素汚染飲料水により軽症ではあるものの障害を来す可能性を示した。更には聴覚障害に関して、日本宮崎県では、高齢者、高濃度ヒ素曝露の長期経過後においては、聴性脳幹誘発電位は正常コントロール群と有意な差は認めなかった。ミャンマー国タバン地区での、小児から大人、現在進行形の低濃度ヒ素曝露においては、小児においてのみ聴覚障害有の群が、無の群よりも、算出された飲料水ヒ素濃度が有意に高値であった。即ち、高濃度曝露であっても、大人においては長期的には後遺症を残さないと推測された。逆に低濃度であっても、小児に対しては聴覚障害を来す可能性が示唆された。ヒ素濃度の安全な閾値は年齢によって異なる可能性がある。ヒ素による神経障害を検討する際には、曝露されるヒ素の濃度、期間以外に、年齢を含めた曝露される側の要素を十分に考慮する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
宮崎県土呂久地区におけるこれまでのデータの解析は大まかには収集され、分析された。その中で現在のヒ素汚染地域の被害を分析するための基礎データを作成することができた。ミャンマー国での分析は、末梢神経が10ppbという低濃度の曝露においても障害される可能性が示された。聴覚障害について宮崎県土呂久およびミャンマ―タバン地区を比較検討し、低濃度から高濃度、年齢による比較を実施し高濃度曝露であっても、成人においては長期的には後遺症を残さないと推測された。逆に低濃度であっても、小児に対しては聴覚障害を来す可能性が示唆された。これらの知見は世界で初めて示された事項である。 土呂久地区のデータに関しては、更に詳細な分析を行っており、感覚障害と自律神経障害の関連を分析し、曝露早期から自律神経障害が出現していることを客観的に示された。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降のミャンマーでの活動は、新型コロナウイルス感染症の影響で準備が進んでいない状況で、土呂久での検診も日程を再調整している。 今後は、これまでの土呂久データを詳細に分析し新たな知見を蓄積する予定である。これまでの土呂久データ分析では、インタビューによる主観的症状と神経診察による客観的所見について横断的に評価してきた。しかしながら、曝露年齢と曝露濃度(中心部からの距離)、感覚障害、自律神経障害などの出現時期についての検討がほとんどなされていない。時間経過の要素を追加して、詳細な分析を実施する。有意な所見が見いだされた際は、これまでのミャンマーでのデータと比較分析する。また、当科では容易に小脳失調を定量化する手法を開発した。この手法を土呂久およびミャンマー国で実施し、ヒ素曝露が小脳に与える影響の有無について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に、ヒ素曝露患者に対して、小脳機能の測定を実施する予定としたが、そのための消耗品購入費とした。
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