研究課題/領域番号 |
18K10056
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
飯泉 陽介 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20533178)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ケミカルバイオロジー / がん予防 / 結合タンパク質 / ナノ磁性ビーズ / 作用機序 |
研究実績の概要 |
がんの罹患率は、我が国においても年々増加傾向にあり、がんの効果的な予防法の開発が急務である。本研究課題では、がんの予防効果が強く期待されている糖尿病治療薬メトホルミンに着目している。メトホルミンは昔から臨床で使われてきた安全で健常人への投与も許容されている医薬品であるが、どのような分子メカニズムにより、がん予防効果を発揮しているかについては、未だ不明な点が多い。本研究課題は、ケミカルバイオロジーの手法(ナノ磁性ビーズ)を用いて、メトホルミンが直接結合し作用するヒト細胞内のタンパク質(メトホルミン結合タンパク質)を網羅的に同定することで、メトホルミンによるがん予防効果の分子基盤を解明し、さらにメトホルミンから効果的ながん予防法の秘訣を知ることを目的としている。 昨年度までは、定法によりメトホルミンをナノ磁性ビーズに固定化できなかったため、京都府立医科大学化学教室の伊藤幸裕先生に相談し、複数の触媒や反応系を検討した。その結果、メトホルミンを再現良く安定的にナノ磁性ビーズに固定化できる方法が見つかった。次に、ヒト臨床介入試験や疫学研究からメトホルミンによる大腸癌予防効果が示されていることから、大腸癌細胞の抽出液とメトホルミン固定化ビーズを混合し、メトホルミン結合タンパク質を精製し質量分析計を用いて同定した。メトホルミンの直接の結合タンパク質としては、グリセロリン酸脱水素酵素が報告されていたが(Madiraju AK., Nature, 2014)、メトホルミンの新規結合タンパク質候補として新たに10個のタンパク質を同定することに成功した。これらの中には、メトホルミンの抗癌作用に関わる癌関連タンパク質を制御するタンパク質やメトホルミンの抗糖尿病効果に関わる糖新生を制御するタンパク質などが含まれていた。今後は、これら新規結合タンパク質とメトホルミンの関係について詳細に解析していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
定法ではメトホルミンをナノ磁性ビーズに固定化できず、メトホルミンの固定化法の開発に時間を要してしまったため、今年度までに結合タンパク質に基づいたメトホルミンの作用機序解析が行えなかった。
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今後の研究の推進方策 |
メトホルミンの抗癌作用に関わる癌関連タンパク質を制御するタンパク質Aと糖新生を制御するタンパク質Bについて解析し、メトホルミンのがん予防効果の分子メカニズムを詳細に明らかにしていく。初めに、組換えタンパク質AとBをメトホルミン固定化ビーズと混合し、これらのタンパク質とメトホルミンが直接結合するか否かを検証する。大腸癌細胞や肝臓の正常細胞に、メトホルミンを添加したり、RNAi法を用いてタンパク質A、Bを発現抑制したりすることで、メトホルミンの薬理作用とタンパク質A、Bの関係を調べる。また、タンパク質A、Bの活性に対するメトホルミンの作用も調べることで、タンパク質A、Bを介したメトホルミンの作用機序を詳細に明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
メトホルミンのナノ磁性ビーズに対する固定化法の開発に時間を要してしまい、今年度は結合タンパク質の解析に必要な種々の試薬、材料を購入する必要がなかったため次年度使用が生じた。来年度は、タンパク質A、Bを介したメトホルミンの作用機序解析のために、タンパク質A、Bの組換えタンパク質やタンパク質A、Bに対する抗体やsiRNA、またタンパク質A、Bが制御する癌関連タンパク質などに対する抗体など、様々な試薬や材料などを新たに購入する必要がある。
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