EBウイルス(Epstein-Barrウイルス)は成人の約95%に感染している普遍的なウイルスである。その一方で、リンパ腫、上皮細胞がんなど、様々な腫瘍に関与する「ヒト腫瘍ウイルス」でもある。EBウイルスが関連する疾患には、「EBウイルス陽性胃がん」のように地域特異性がみられない疾患がある一方で、中国南部・東南アジア地域に多い「上咽頭がん」や、日本・韓国などの東アジア地域に多くみられる「EBウイルス関連T/NKリンパ増殖症」にように特定の地域に偏在するものがあることが知られているが、その理由は不明である。本研究では、日本の扁桃由来EBウイルス株7株について全長ウイルスゲノムDNAをクローン化、塩基配列を決定し、他地域由来のEBウイルス株の塩基配列との比較を行った。 その結果、①日本人に無症候性に感染しているEBウイルス株に多様性があること、②アジア株はヨーロッパ・アメリカ・アフリカ・オセアニア地域に由来する株とは異なるグループを形成すること、③アジア地域においては日本を含む東アジア株が中国南部・東南アジア株と異なるグループを形成していること、を見出した。 これらの結果と、EBウイルス陽性上咽頭がんの発症率が中国南部・東南アジアで高く、慢性活動性EBウイルス感染症などの発症率が日本を含む東アジアで高いということを合わせて考えると、アジアにおけるEBウイルス株の地域分布とEBウイルス関連疾患の好発地域が一致する可能性があることが示された。つまり、地域住民に見られる遺伝的背景の違いや生活習慣の違いに加えて、その地域に分布するEBウイルス株の違いもアジアのEBウイルス関連疾患が特定の地域に好発する理由の一つである可能性が考えられる。
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