研究課題/領域番号 |
18K10060
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
森本 泰夫 産業医科大学, 産業生態科学研究所, 教授 (30258628)
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研究分担者 |
和泉 弘人 産業医科大学, 産業生態科学研究所, 准教授 (50289576)
友永 泰介 産業医科大学, 産業生態科学研究所, 助教 (20721707)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Polyacrylic acid / inflammation / fibrosis / lung |
研究実績の概要 |
無機粉じんによる肺障害は、石綿や結晶質シリカに代表されるように、じん肺、肺がん、悪性中皮腫などを発症させることが知られているが、これらは疫学的調査、培養細胞試験、動物実験(吸入ばく露試験、気管内注入試験)などの評価に基づいている。しかし、有機粉じんにおいては、有機高分子材料であるアクリル酸系水溶性高分子化合物を取り扱う作業場における重篤な呼吸器疾患の事案発生にもかかわらず、現状では肺障害に関わる研究はほとんど報告されていない。このような状況を鑑み、本研究において、有機高分子材料の肺障害性を検討するために、ラットを用いた気管内注入試験に基づく実験的検討を行った。ばく露群には、架橋型、非架橋型のアクリル酸系水溶性高分子化合物(市販されているポリマー)を蒸留水で懸濁し、低用量、高用量で気管内注入した。対照群には蒸留水を気管内注入した。注入後6ヶ月間の観察期間において、3DマイクロCTおよび解剖を行い、肺炎症を評価した。炎症は、架橋型、非架橋型とも用量依存性に起こり、炎症の程度、持続期間は、架橋型が非架橋型より強い傾向にあった。両ばく露群とも、難溶性の化学物質に比べると、炎症は強かったが、持続期間は短かった。従ってアクリル酸系水溶性高分子化合物の炎症刺激性は高いが、持続能が低いことから、総合的な炎症能(不可逆的な線維化や腫瘍形成に及ぼす能力)は、気管内注入試験の長期観察または吸入ばく露試験の結果が必要となる。不可逆的な変化である肺線維症や肺腫瘍の有無を確認するために、高用量のアクリル酸系水溶性高分子化合物を気管内注入した後、2年間後に病理変化を観察する群も現在観察中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
架橋型、非架橋型のアクリル酸系水溶性高分子化合物(市販されているポリマー)を蒸留水で懸濁し、F344雄性ラット12週齢に、低用量(0.2 mg/rat)、高用量(1.0 mg/rat)で気管内注入し、対照群には蒸留水を気管内注入した。注入後のラットは、動物センターにて飼育しており、一定の観察期間(3日、1週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月)後に3DマイクロCTおよび解剖(気管支肺胞洗浄、肺組織採取)を行い、肺炎症を検討した。 架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物曝露群では、気管支肺胞洗浄液や肺組織において、用量依存性に著しい好中球性の炎症所見を認め持続した。3ヶ月後に線維化の所見も認めた。非架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物曝露群では、気管支肺胞洗浄液や肺組織において、用量依存性に好中球性の炎症所見を認めたが、炎症は経時的に消退した。線維化の所見は認めなかった。いずれの群でも3~6ヶ月後には、炎症所見は認めなかった。 また、不可逆的な変化である肺線維症や肺腫瘍の有無を確認するために、アクリル酸系水溶性高分子化合物を気管内注入した後2年間の観察を行う高用量群も用意し、現在、観察中である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに実施したアクリル酸系水溶性高分子化合物の気管内注入試験の2年間観察群においては、引き続き、動物センターにて経過観察中であり、実験を継続する。また、アクリル酸系水溶性高分子化合物の炎症能を有することが認められたので、網羅的解析などを介して、炎症に関連する候補遺伝子をリストアップして、昨年度までに実施したアクリル酸系水溶性高分子化合物気管内注入モデルにおける上記候補遺伝子の遺伝子発現を検討する予定である。 本研究で得られた知見と、われわれがこれまでに行ってきた工業用ナノ材料を含む金属・無機材料の気管内注入試験の知見とを集約し、相互関連を評価し、有機高分子材料による肺障害についてまとめる。また、病変の進展には、総合的な炎症能に関わる遺伝子の検索を介して、有機高分子材料による肺障害のメカニズムの探索、肺障害評価が可能なバイオマーカーの検索を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度までに研究に大きな問題が発生せず順調に進んだ為、消耗品等に少額の過剰金が発生した。 最終年度の実験などに使用したい為。
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