有機高分子材料であるアクリル酸系水溶性高分子化合物を取り扱う作業場における重篤な呼吸器疾患の事案発生にもかかわらず、現状では有害性(肺障害)に関わる研究はほとんど報告されていない。そこで、われわれは、有機高分子材料の肺障害性を検討するために、ラットを用いた気管内注入試験に基づく実験的検討を行った。ばく露群には、架橋型、非架橋型のアクリル酸系水溶性高分子化合物を蒸留水で懸濁し、低用量、高用量で気管内注入した。対照群には蒸留水を気管内注入した。定期的(6ヶ月間観察)に3DマイクロCTおよび解剖を行い、肺炎症を評価した。6ヶ月間の観察においては、炎症は、架橋型、非架橋型とも用量依存性に起こり、炎症の程度、持続期間は、架橋型が非架橋型より強い傾向にあった。 また、線維化は架橋型では注入後1週から6ヶ月まで持続したが、非架橋型では明らかな線維化は認めなかった。 不可逆的な変化である肺線維症や肺腫瘍の有無を確認するために、アクリル酸系水溶性高分子化合物を気管内注入した後2年間の観察を行う群も用意し、現在実験継続中である。
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