研究課題/領域番号 |
18K10081
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
市川 政雄 筑波大学, 医学医療系, 教授 (20343098)
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研究分担者 |
中原 慎二 帝京大学, 医学部, 准教授 (40265658)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高齢ドライバー / 政策評価 |
研究実績の概要 |
近年、高齢運転者対策がますます強化され、社会的にも高齢運転者に運転中止を促す機運が高まっているが、その社会的影響についてこれまで見過ごされてきた。高齢運転者は運転をやめれば事故を起こさなくなるが、運転者から歩行者などの交通弱者に立場を変え事故に遭ったり、社会的に孤立したりする可能性がある。本研究はその被害の大きさや経年変化を検証するものである。 今年度は、75歳以上の免許保有者に対し認知機能検査を導入したことで、負の影響(高齢運転者が運転をやめたり控えたりすることで、歩行中や自転車乗用中に交通弱者として事故に遭う高齢者が増加)が生じていないか、そのような影響を軽減しうる方策(生活道路の一定区域で走行速度と通過交通を規制する「ゾーン30」)に効果があるのかを検証した。いずれも、2005年1月から2016年12月までの月ごとのデータをもとに、人口あたりの交通弱者の死傷件数(死傷率)を性・年齢層ごとに算出し、認知機能検査導入後あるいはゾーン30導入後に死傷率がどの程度変化したかを分割時系列分析という手法を用いて分析した。交通事故の起こりやすさ(たとえば、交通量や道路交通環境)は年や月によって変化しうるため、分析の際にはそれを考慮した。その結果、認知機能検査導入後に高齢交通弱者の死傷率が増加したことがわかった。これは高齢運転者が運転をやめたり控えたりして、交通弱者に転じたことによると考えられた。一方、交通弱者の死傷率はゾーン30の対象となる生活道路において低下しており、ゾーン30が導入され始めた2011年9月から2016年12月までの間に、高齢者を含む全年齢層で1704人の死亡・重傷が予防されたと推定された。 この研究成果は、American Journal of Public HealthとAccident Analysis and Preventionに発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、データ分析を行い、論文として発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、高齢運転者の運転寿命を延伸するのに必要な方策(条件付き運転免許制度など)や、高齢交通弱者の身を守る方策(自転車ヘルメットの着用など)を検討し、これまでの研究成果と合わせて、モビリティの観点から高齢者の健康・安全・社会的包摂を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
道路交通法の改正により、高齢運転者に対する認知機能検査の運用が変わり、その影響を検証するのに、交通事故のデータを追加購入する必要がある。必要なデータが購入できるようになるのは来年度であり、来年度の予算だけでは購入できないため、今年度の予算の一部を来年度に繰り越すことにした。
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