近年、高齢運転者対策がますます強化され、社会的にも高齢運転者に運転中止を促す機運が高まっているが、その社会的影響についてこれまで見過ごされてきた。高齢運転者は運転をやめれば事故を起こさなくなるが、運転者から歩行者などの交通弱者に立場を変え事故に遭ったり、社会的に孤立したりする可能性がある。本研究はその被害の大きさや経年変化を検証するものである。 今年度は高齢運転者の運転寿命を延伸するのに必要な方策として、海外で導入されている条件付き運転免許制度とその効果について文献をレビューするとともに、過去2年間の研究成果をもとに、高齢運転者対策の改善点を検討した。条件付き運転免許制度については、文献レビューの結果、運転可能な時間と地域の限定ならびに速度制限によって高齢運転者による事故を削減できる可能性があることがわかった。こうした条件を付けることは日本でも可能であり、その効果を既存のデータをもとにシミュレーションすることが今後の課題である。現行の高齢運転者対策については、高齢者講習や認知機能検査に事故を減らす効果が認められないことから、その対象者を運転者の年齢で一律に決めるのではなく、たとえば臨時認知機能検査のように、信号無視や通行禁止違反などの「基準行為」を行った運転者を対象にするなど、運用の見直しとその効果検証を提案したい。また、高齢者は運転をやめることで要介護になるリスクや交通弱者として事故に遭うリスクが高くなることから、高齢運転者対策はそれらのリスクにも配慮が必要である。
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