本研究は死後変化による体内物質の動態を調査し、顕著な変化を示す物質について法医学における死後経過時間推定の新たな指標となり得るか評価・検討することを目的として行った。 本年度は昨年度までに得られた研究成果について分析数を増やして検証・評価することを目指した。ある程度の分析数が得られ、これまでの結果を検証するに至り、研究論文にまとめた。研究業績としては発表論文1報、学会発表1件であった。 本研究では様々な死後経過時間の死体から得られた体液(血液,尿,髄液など)をガスクロマトグラフ等の各種クロマトグラフ装置および質量分析装置により化学分析を行い、腐敗度の高い死体の血液および尿から短鎖脂肪酸や芳香環を有する化合物、短鎖脂肪族アルコール類を数種類確認した。特に顕著な量的変化が見られたのは酪酸(n-butyric acid)であり、詳細な検討により非腐敗群(死後3日未満で肉眼的所見等から非腐敗と判断)に対して腐敗群(死後3日以上で同様に腐敗と判断)では血液で100倍以上、尿では300倍以上の濃度(平均値)の酪酸が検出された。これまで腐敗の指標とされてきたのは死後産生されるエタノールと1-プロパノールの比率であったが、経験的に定められた指標に適合しない事例が多かった。これに対し、本研究で見出された酪酸については、血中および尿中濃度において統計処理で有意な群間差(p<0.01)が示され、且つ群間の濃度範囲にオーバーラップも認められず指標として有用であると評価できる。硫黄酸化物の死後の量的変化の調査については、体液中のチオ硫酸塩濃度が腐敗群において大きいことが確認された。硫酸塩や亜硫酸塩等の他の硫黄酸化物については詳細なデータが得られなかった。 事業期間中の本研究に関係する発表論文は2報、学会発表は7件であった。
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