研究課題/領域番号 |
18K10120
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
塚 正彦 金沢大学, 医学系, 教授 (00272956)
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研究分担者 |
武市 敏明 杏林大学, 医学部, 助教 (90460360)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脳動脈瘤 / マトリックスメタロプロテアーゼ / 高血圧 / 法医実務 / 組織脆弱性 / プロテアーゼ活性 / 脳脊髄液 |
研究実績の概要 |
脳動脈瘤の進展機序の解明は、異状死を含む突然死の予防に役立つ。法医実務で採取可能な微小動脈瘤を定義して、小動脈瘤と共に解析を進めたところ、前年度に高血圧との関連が示唆され、本年度は、脳動脈瘤の外膜側つまり脳脊髄液に満たされた側から血管壁組織脆弱性を高める因子について、脳動脈瘤伸展のごく初期の段階で、少なくとも蛋白分解酵素の活性化メカニズムのみによる著名な関与は証明されなかった。その暫定的な結論を得るにあたっては以下の検討が必要であった。法医解剖事例から得られるヒト組織材料の①死後経過時間②保存状態など、解析対象としての問題点は、脳の微小動脈瘤を定義し、代替材料であるヒト大動脈のpreliminaryな検討を加えて、死後2日以内の組織材料に限定することで克服した。具体的には、前年度8事例の微小動脈瘤の解析で、多くは大動脈を用いた先行研究で認められたように、形態学的にびまん性内膜肥厚、脂肪線条、線維性肥厚及び粥腫等、いずれかの粥状硬化性病変を伴ない、同時に生化学的にゼラチナーゼA(MMP-2)の活性化を認ている。一方で事例における生前の既往症から粥状硬化の危険因子である高血圧、糖尿病及び高脂血症の有無を調べて頻度と微小動脈瘤との関係を考察して、高血圧症が生活習慣病とされる慢性疾患のなかでは有意な関与を示した。ゼラチナーゼB(MMP-9)についての検討も並行して行っているが、現在のところ、微小動脈瘤の発生との間に有意な関係は認められていない。これらから、前駆する粥状硬化及び血管内圧が瘤発生の引き金になるとの途中結果を得ている(第103次日本法医学会;第104次日本法医学会)。 一方で今年度は、覚せい剤投与量の変化で生じるストレスが与える頭蓋冠内の神経組織脆弱性を通して、また、血管壁組織脆弱性と密接に関連する血管透過性をプランクトン検査を通じて、各々検討された内容を論文化できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
法医解剖事例から得られるヒト組織材料は無治療故、病変形成の自然経過を知る上で代替不可能な試料である一方、新鮮材料と比較して①死後経過時間②保存状態など、解析対象としての多数の問題点を抱えるところから本研究はスタートしている。そこで前年度は、脳の微小動脈瘤を定義し、代替材料であるヒト大動脈の検討から、死後2日以内の組織材料に限定した。その後の個別的検討により、対象とした未破裂の脳微小動脈瘤は、高血圧を生前有した異状死体で高頻度に認められたが、具体的問題点として病変のサイズが小さく蛋白質量の解析に困難が生じていた。それを前年度から今年度にかけて、ゼラチンを基質とした高感度ザイモグラフィーを用いて克服した。症例数の蓄積は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も検討する事例の蓄積と並行して、現時点ではなお仮説に止まるが、プロテアーゼの活性化が、壁組織脆弱性を伴う脳動脈瘤の成長過程でフェーズ毎に、血管の内外つまり血管壁組織脆弱性の極性を変えながら、異なった複数の機序で制御されるという新しい概念を提唱したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、法医実務の大半を占める法医解剖事例数が例年と較べて少なく、そこから採取される血管の数も減少した。消耗品の消費が減ることにつながり、初年度の繰越金に加えて当初の申請に予定していた今年度分を加えて、さらに繰り越されることとなった。次年度使用額は、教室内で増えることが予定されている教室内の研究者と共に本来の申請内容の完遂に向けて努力したい。
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