研究課題/領域番号 |
18K10122
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
財津 桂 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (30700546)
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研究分担者 |
林 由美 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (30632707)
井口 亮 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (50547502)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リアルタイム・メタボローム / メタボロミクス / 法中毒 |
研究実績の概要 |
本年度は主に以下の点を達成した。 1) リアルタイム・メタボローム解析を用いたCB1受容体アゴニストの脳内メタボライトに与える影響および実証性評価:名古屋大学・林講師とともに、ICRマウスを麻酔下で外科手術を行い、頭蓋骨に小孔をあけ、脳表面を露出させたのち、特殊溶媒カップを設置した。その後、リアルタイム解析システムにマウスを固定した後、乱用薬物として流通していたCB1受容体アゴニストあるいはvehicleを投与し、エネルギー代謝関連物質の脳内メタボライトをリアルタイム・モニタリングした。その結果、CB1受容体アゴニストによって、脳内TCA回路に変動が生じることが示された。さらに、グルコースなどの内因性代謝物を用いて、本システムの実証性を検証した。 2)リアルタイム・メタボローム解析法の成分数の拡張:Scheduled SRM法を応用し、リアルタイム測定の成分数の拡張を図った。SRM modeにおける質量分析計のroop timeとPESIの駆動周期が一致する条件を最適化し、最適条件をメソッドに反映させるための手法を構築した。これを用いて多成分系へシステムを拡張した結果、40成分のメタボライトのリアルタイム計測を達成した。 3)肝臓内メタボライトのリアルタイム計測と実用性評価:これまでのシステムでは脳内のメタボライトのリアルタイム計測に特化していたことから、名古屋大学・林講師とともに、本システムを肝臓内メタボライトのリアルタイム計測に拡張した。ここでは外科手技および特殊溶媒カップの取り付け法を最適化し、肝臓内メタボライトのリアルタイム計測を達成した。さらに、肝障害を惹起させる薬剤や内因性代謝物などをマウスに投与することで、本システムの実用性を実証した。 4) 時系列データ解析法の構築:産総研・井口主任研究員とともに、得られたデータの時系列解析法の構築を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題で最も注力すべき点である本システムの多成分系への拡張に成功し、既に現時点で40成分のメタボライトのリアルタイム計測を達成した。特に、Scheduled SRM法を利用し、PESIの駆動周期とroop timeの最適化にも成功した。 さらに、本リアルタイム計測システムを脳内だけではなく、他臓器(肝臓)への拡張にも成功した。さらに、肝障害を惹起させる薬剤や内因性代謝物などを用いて、本システムの実用性を検証した結果、本システムの再現性および実用性を実証することに成功した。特に肝障害を惹起する薬剤による検証においては、既知の作用機序に応じた変化をリアルタイムで観察することに成功したことから、本システムの高い有用性が明らかとなった。 上述のとおり、得られた成果は学会発表(国際学会での口頭発表1題(IMSC 2018)、ポスター発表1題(ASMS 2018))を行ったほか、既に論文として投稿し、現在、修正原稿を再投稿している段階にある。 また、研究代表者である財津は、本システムの開発によって、日本医用マススペクトル学会の奨励賞を受賞(受賞演題名:質量分析によるメタボローム解析の法中毒学的応用ならびに新規質量分析法を用いたリアルタイム・メタボローム解析技術の開発)した。さらに現在、本研究成果を基にした書籍の執筆も進めている。 以上の成果から、本研究課題は当初の計画よりも予想以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、構築した多成分系のリアルタイム・システムを用いることで、より多くの対象成分の脳内での変動をリアルタイムで観察し、毒性発現機序の解明を試みる予定である。また、既に我々が保有しているCB1受容体KOマウスなどを組み合わせて実験に用いることで、より実証性の高い実験系を構築できる可能性もある。さらに、肝臓内メタボライトのリアルタイム計測を達成したことから、肝障害を惹起する薬剤についても同様に機序解析を行う方針である。さらに現在、産総研・井口主任研究員と進めている時系列データの解析手法についても概ねアルゴリズムが完成してきており、既にいくつかのpreliminaryデータで興味深い結果が得られている。そこで、新たに開発した本解析手法を、リアルタイム計測で得られたデータに実際にapplyしていくことで、本アルゴリズムの実証性をより詳細に評価する予定である。特に本解析手法を用いれば、リアルタイム計測で得られた変動を鋭敏に可視化することが出来るため、極めて強力な解析ツールとなることが強く期待できる。 また、本研究課題は分担研究者である名古屋大学・林講師および産総研・井口主任研究員の積極的な協力のおかげで、予想以上に進展していることから、新たなイオン化法のapplyなども視野にいれ、リアルタイム計測手法のさらなる高度化についても鋭意的にチャレンジしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に行ったプレ実験が予想以上に進展し、当初の予定よりも短期間でプレ実験が終了したため、プレ実験の予定経費を削減することが出来たことから、次年度使用額が生じた。次年度では、本年度に得られた実験結果を用いて、時系列多変量解析法の構築をさらに進める予定であるが、その際、データ解析手法の情報収集等に必要な旅費あるいは物品費へ、次年度使用額を使用する予定である。
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