研究課題/領域番号 |
18K10126
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
高橋 玄倫 神戸大学, 医学研究科, 講師 (90509100)
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研究分担者 |
近藤 武史 神戸大学, 医学研究科, 講師 (20335441)
上野 易弘 神戸大学, 医学研究科, 教授 (30184956)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 炎症 / 心臓性急死 / 死後性化学検査 |
研究実績の概要 |
C反応性蛋白質(CRP)は生体内において、炎症反応によって大幅に発現誘導がみられる代表的な炎症性分子であり、炎症マーカーとして広く一般臨床に応用されている。このほか、菌体成分に対する可溶性受容体として炎症反応を調節する働きが知られている。一方、ペントラキシン3(PTX3)はCRPと同じペントラキシン属の蛋白質であり、その生理的・病態的意義について諸分野で研究が進められている。法医学領域に於いてもエタノールによる発現調節や急性冠症候群死亡事例における指標への応用を目指した研究報告がなされてきた。 PTX3は生体内に於ける高次構造のために死体試料中PTX3は死亡前の状態を反映していない恐れがある。他機関の研究者は、白血球数を指標として補正をすることで、急性冠症候群のマーカーとなりうると報告している。そこで、私どもはPTX3検出における死後変化、特に溶血による影響と、PTX3測定系におけるCRP混在の影響について検討した。また、PTX3の新たな死後補正方法として、白血球に多く含まれるペルオキシダーゼ(PO)の溶血による血清中への逸脱量について検討した。 解剖時に採取した血液の上清を非変性条件下で電気泳動し、白血球PO活性を化学発光法にて検出した。溶血試料においてPO活性を認めた。抗PTX3抗体を用いたウエスタンブロット法では低泳動領域に複数バンドを検出した。また、この検出系において血中CRPおよびリコンビナントCRPは交叉反応を示さなかった。低泳動領域の複数バンドは、死体試料中PTX3の構造変化のためと思われる。一方、赤血球の溶血度と上清中PO、POと総PTX3量、POとPTX3分解度にそれぞれ相関は見られなかった。 以上から、死体血液中PTX3は生前の濃度を直接は反映していない恐れがある。また、PTX3濃度の死後補正の方法としてのPOの活用にも制限があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度、私どもは非変性電気泳動法を用いてPTX3を生化学的に検討した。その結果、死後に測定したPTX3濃度をそのまま生前のものと同様に扱うことには制限があることが明らかとなった。また、死後PTX3値の血清PO活性による補正にも制限があることが明らかとなった。既報と結果が乖離した原因として、対象とした試料の死後変性の程度の差があげられる。 ヒト剖検試料を用いた病理組織学的・生化学的検討には、種々の程度の死後変化のために限界がある。本研究の結果と、以前の脳脊髄液中PTX3濃度に関する結果、現在遂行している病理組織学的検討の結果を含め、来年度にはPTX3の法医学実務への応用可能性を明らかにしする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト剖検試料を用いた病理組織学的・生化学的検討には、種々の程度の死後変化のために限界がある。これまで、私どもは非変性電気泳動法を用いてPTX3を生化学的に検討してきた。心臓性突然死の病態におけるPTX3の関与を明らかにするために、今後、剖検時に採取した心筋組織について免疫組織学的検討を進めていく予定である。これまでのところ、死因との関連の同定には至っていないが、一方で、死戦期もしくは死後変化を含めた心筋組織変性においてPTX3が関与している可能性が明らかになりつつある。 また、これまでの非変性電気泳動法ではなく、捕捉抗体および検出抗体の2つを用いたサンドイッチELISA法による特異的検出によって、死体試料中のPTX3濃度について検討をし、病態との関連について明らかにする予定である。 心臓突然死の病態におけるPTX3の関与に関して、培養細胞を用いて検討を開始している。心筋細胞におけるPTX3の発現調節について明らかにする予定である。
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