生体に於いては血中ペントラキシン3(PTX3)濃度が急性冠症候群と関連することが報告されている。死体血液についても同様の報告もあるが、本研究の過年度の検討では白血球ペルオキシダーゼで補正した血中PTX3値と死因との間に関連は見られなかった。死体血液では時間経過とともにPTX3の高次構造が変化し、このことがPTX3の測定値に影響を及ぼしている可能性がある。剖検心臓組織に対する免疫組織化学染色では、心筋細胞や線維芽細胞にPTX3陽性像を認めた。 心臓組織に於いてPTX3は心筋細胞や線維芽細胞の機能に関連していることが想定されたため、これらの培養細胞を用いてPTX3の発現調節とシグナル解析を行った。培養心筋細胞では時間依存性に形態変化が強くなり、MEK1/2を介してPTX3 mRNA発現は増加していた。そこで、剖検心臓組織で心筋細胞と同様にPTX3を発現している線維芽細胞について、培養心臓線維芽細胞を用いて同様に炎症刺激によるPTX3 mRNA発現の変化について検討した。TNFαによってPTX3 mRNAの発現は増加傾向にあった。また、時間経過によって細胞の形態が細く痩せ、または、球状変形などの細胞形態の変化や生存細胞の減少を来すとともに、PTX3 mRNA発現の増加を認めた。この発現増加はMEK1/2阻害剤処理によって抑制された。線維芽細胞において、細胞傷害・細胞死にPTX3が関わっている可能性があり、このことが心臓性突然死の病態の一端かもしれない。
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