本研究は臨床分野で心臓のリモデリングマーカーとして有用であると報告されている「テネイシンC(;TN-C)」が法医学分野でも応用可能かどうかを目的に研究を行ってきた。 本研究者は以前、血清中のTN-C濃度をELISAで測定し、死因を大きく分類して統計学的に検定したところ、心臓関連死群だけでなく、頭部外傷群(脳組織損傷死)でも経日的に有用である傾向があったことを報告した。そのため、さらに詳しく脳組織傷害受傷症例について検討する必要があったが、解剖症例では頭部外傷群の症例が少なく、また受傷機序が様々であったため、まずはある程度条件の調整できるラットモデルの作製が必要と考えた。 そこで、本研究者の研究協力者が別研究で作製した「出血性ショックモデルラット」の必要な血液等のサンプルを採取し終えた直後(死亡確認)から、本研究者が引き続き、脳、心臓、肺臓、肝臓、腎臓、脾臓を摘出し、パラフィンブロックの作製を行うというスタンス(3Rの原則)で無駄のない症例数の蓄積を最終年度まで継続した。これらは創傷治癒反応に関わる各臓器のTN-Cや出血の線溶系反応に関わる「プラスミノゲンアクチベータインヒビター1(;PAI-1)」を中心にHE染色や免疫組織化学染色を施して、「出血性ショック」によってどのような組織学的変化が起きているかを観察し、評価方法の検討を行うためであった。 最終年度は、前年度の終盤に脳の固定方法が適していなかったことが判明したため、研究期間を延長して新たに脳の症例を増やし、脳の適切な固定法の検討を行った。また前年度に予備的研究で各抗体の免疫組織化学染色の賦活化至適条件のプロトコールを他研究室のラボの協力で作成したが、本研究者のラボで揃えられる試薬や機器が異なっている部分があったので、安定して継続できるプロトコールの再検討を行った。
|