研究実績の概要 |
浴室内突然死(入浴死)はわが国に特に多く社会的問題になっているが、死亡に至る過程は充分解明されていない。今回、温水を吸引して溺死する過程で変動する肺における遺伝子をDNAマイクロアレイによって網羅的に解析した。方法としては、これまでの検討で確立してきた温水溺死マウス(38, 41℃)の各肺から抽出したtotal RNAを試料としてAgilent Array発現解析(タカラバイオ)を行った。各遺伝子発現が対照(頚椎脱臼により安楽死)に対して1.5を上回る、あるいは0.66を下回るものを有意な変動とした。結果、38℃温水溺死では793遺伝子、41℃温水溺死では743遺伝子に有意な変動がみられた。両群で変動がみられた遺伝子を(A)水チャネル/浸透圧受容体群、(B)熱ショック蛋白群、(C)低酸素誘導群に分けて抽出したところ、(A)群はaqp (aquaporin) 2、aqp4、aqp11、trpm1(transient receptor potential cation channel, subfamily M, member1) 、(B)群はfkbp5(FK506 binding protein 5)、hsp90ab1、hspa1l、hspb1、hspb8、(C)群はhif1an(hypoxia-inducible factor1, alpha subunit inhibitor)、egln3(egl-9 family hif3) が同定され、これまで注目していない遺伝子が多数含まれていた。今後、それらの遺伝子についてqRT-PCRにて発現を確認することで、複数の指標に基づく温水溺死の分子生物学的診断法の確立を目指したい。
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