研究課題
人体においてアクアポリンの減少は,潰瘍性大腸炎など様々な疾患に関与するとともに,抗がん剤による副作用の発生にも深く関わっていることが分かってきた.本研究課題においては麻酔下で野生型マウスを開腹して下大静脈を結紮することにより,深部静脈血栓症(DVT)モデルを確立した.この手法により結紮から1,3日後の急性期,5,7,10日後の亜急性期,14,21日後の慢性期まで,7段階の各状態の血栓を得ることが可能になった.これらの血栓における血液凝固線溶系因子,血栓溶解に関わっていると考えられるサイトカイン・ケモカインや受容体(IFN-gamma,TNF-alpha,TNF-Rp55,IL-6,CCR5,CX3CR1),細胞外基質分解酵素群(MMP-2,MMP-9),ウロキナーゼ型および細胞型プラスミノーゲン活性因子(uPA,tPA),さらに骨髄由来線維細胞(fibrocyte),血管内皮前駆細胞(EPC)の,血栓陳旧度にともなう動態を検討してきた.本年度はこれまで培ってきた手法をもとに,アクアポリン1,3について,免疫組織化学的染色を行った.両者の局在や動態と血栓陳旧度との関連性を明らかにし,血栓陳旧度判定のための新たな指標の確立を試みた.血栓断面積にアクアポリン1陽性領域は結紮後5日目までは70%以上を占め,7,10日目は40%前後に減少し,さらに14日以降では20%以下に至った.一方,血栓中のアクアポリン3陽性細胞数は結紮からの時間経過に伴い徐々に増加し,10日目で最も多くなり,その後減少する傾向を認めた.以上の結果と,マッソン・トリクローム染色によって得られた,コラーゲン領域との関連により,これまで難しかった,急性期の血栓陳旧度判定の指標が可能となることが示唆された.
2: おおむね順調に進展している
これまでに,血栓形成・溶解過程におけるメカニズムの解明を目指して,様々な因子について急性期から慢性期までの血栓においてその動態を明らかにしてきた.同時にヘマトキシン・エオジン染色像やマッソン・トリクローム染色像により,血栓の形態学的検索を行ってきた.白血球(好中球,マクロファージ)や細胞外基質分解酵素群(MMP-2,MMP-9),ウロキナーゼ型および細胞型プラスミノーゲン活性因子(uPA,tPA),サイトカイン,ケモカイン,またそれらの受容体,骨髄由来線維細胞(fibrocyte),血管内皮前駆細胞(EPC)などの血栓内の局在を解明するために,免疫組織化学的染色または蛍光二重染色を,用手法ならびに,自動免疫染色装置を用いて行ってきた.特に,自動免疫染色装置を用いることにより,陽性領域や陽性細胞数の変化について,より定量的な評価を可能にした.また血栓におけるサイトカイン,MMP,uPA,tPA等の遺伝子発現を,リアルタイムRT-PCRによって定量的に評価し,血栓陳旧度にともなう分子生物学的変化に関する結果を,現在もなお集積しているところである.特に血栓陳旧度判定においては,IFN-gamma,TNF-alpha,TNF-Rp55,IL-6,CCR5,CX3CR1の免疫組織化学的染色結果より,血栓陳旧度の基準となり得る新たな指標を見出し,研究成果の発表を予定している.本研究課題はこれらの実績を基礎として,アクアポリン1,3それぞれについての免疫組織化学的解析を行い,血栓陳旧度判定のための新たな指標を確立することを目的としている.本研究の目的を達成するために,必要な結果を着実に得ており,最終年度終了までに目的を達成できると考えている.
国内外において深部静脈血栓症(DVT)を惹起する要因は今後も増え続けることが予想され,剖検時に深部静脈血栓が発見されること,そしてそれが死因や死後経過時間推定に重要な意味を持つ可能性がある場合も増える可能性がある.そこで以下の点に重点を置いて研究を推進する.実験用マウスを用いた下大静脈結紮によるDVTモデルから得られた,血栓の陳旧度判定指標を確立することが目的の一つである.血栓は血栓形成開始から1,3日後の急性期,5,7,10日後の亜急性期,14,21日後の慢性期まで,7段階の各状態の血栓組織標本について,抗アクアポリン1,3抗体それぞれを用いて免疫染色した結果に基づくものである.次にその結果を応用して,法医剖検例において採取された血栓試料についても,実験モデルと同様の手法を用いて血栓陳旧度の判定を試みる.また,アクアポリンの染色結果による血栓陳旧度評価結果は,これまでに発表してきたマッソン・トリクローム染色によるコラーゲン領域の変化や,白血球やマクロファージの数やその比をもとにした指標などとの関連や相関,整合性を常に検討していくこととする.このようにして血栓形成および溶解過程におけるアクアポリンの動態を解明することにより法医実務的研究へと発展させることを目的として研究を推進していくのはもちろんのこと,DVTの予防や治療方法開発に示唆を与えることのできる結果を見出すことも,視野に入れている.以上の結果については,国内外の法医学や免疫学,炎症,創傷などに関連する学会や,関連する分野の国際学会誌に発表する予定である.
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