重篤な肺炎等に伴う高度の炎症が体内時計に及ぼす影響を解析し、その分子機構を明らかにして、体内時計に基づく死亡時刻推定をより精度の高いものする事が本研究課題の目的である。これまでに本研究において盲腸結紮・穿刺法(CLP)をマウスに施行し、腹膜炎を誘起するとマウスの心臓および腎臓における時計遺伝子の発現パターンが著しく変化することとSirtuin1の遺伝子及びタンパク発現が有意位に上昇することを明らかにした。CLPによる時計遺伝子の発現パターン変化の分子機構を明らかにする目的で、令和2年度もCLP処置マウスとシャムマウスの心臓と腎臓におけるSirtuin1と時計遺伝子産物であるBmal1およびPeriod2の相互作用を抗Bmal1抗体、抗Period2抗体、抗Sirtuin1抗体および抗acetyl-Lysine抗体を様々に組み合わせ、種々の条件下で免疫沈降による検討を行った。CLPによるBmal1とPeriod2の遺伝子発現変化がSirtuin1によるBmal1とPeriod2からの脱アセチル化が関与することを明らかにすることを目指したが、研究期間終了時点においてSirtuin1によるアセチル化Bmal1あるいはアセチル化Periodo2の脱アセチル化を示す明確な証拠は得られていない。本研究終了後もSirtuin1による時計遺伝子発現への関与については更に研究を続ける予定であり、Sirtinol等のsirtuin1特異的阻害剤やSRT1720等のsirtuin1 特異的活性化剤等を用いてin vivoの実験を行い、Sirtuin1による時計遺伝子発現制御の分子機構を明らかにすると共に時計遺伝子に基づく死亡時刻推定法の更なる精度向上を目指す心算である。
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