研究課題/領域番号 |
18K10136
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
町田 光世 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (60468692)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 全ゲノム増幅法 / DNA損傷 / STR解析 |
研究実績の概要 |
法医学における個人識別では主にshort tandem repeat(STR)解析が用いられているが、環境への曝露などでDNAが変性した場合にSTR解析は困難となることがある。そこで、PCR反応に基づいた全ゲノム増幅法の1つであるmodified improved primer extension preamplification(mIPEP)法に着目し、mIPEP法が変性DNAを用いたSTR解析に対して有効かどうかを検討した。実験協力者から採取した唾液を染み込ませた濾紙を3、7、14、30日間紫外線で照射した後DNAを抽出した。紫外線照射したDNAの分解度はKapa hgDNA Quantification and QC Kitを用いて129 bpと41 bpのDNA濃度を測定し、各DNA濃度から129 bp:41 bpの比を計算した。DNA5、0.5、0.05ngについて、mIPEP法により全ゲノム増幅を行い、増幅前後のDNAをAmpFlSTR Identifiler kitでSTR解析を行った。本実験は、本学遺伝子解析研究に関する倫理審査委員会の承認を得て実施した。 DNA5ngを全ゲノム増幅に用いた場合、分解度0.2未満の高度に分解された試料で、全ゲノム増幅後のSTR検出数が増幅前のSTR検出数より多かった。DNA0.5ngを全ゲノム増幅に用いた場合は、全ゲノム増幅前後のSTR検出数に差は認められなかったが、DNA0.05ngを全ゲノム増幅に用いた場合、分解度0.7以上のわずかに分解された試料では、全ゲノム増幅後のSTR検出数が増幅前のSTR検出数よりも多かった。従って、全ゲノム増幅に用いるDNAが5 ngあれば分解度0.2未満で、また、DNAが0.05ngの微量DNAの場合は分解度0.7以上で全ゲノム増幅を行うことによりSTR解析が改善されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
4名の試料提供者から唾液を採取し、濾紙に染み込ませた状態とスライドグラス上に滴下した状態の2条件で試料を作成し、犯行現場における遺留物の擬似試料とした。作成した唾液試料は異なる温度(4℃、室温、37℃)で保存、紫外線照射、屋外環境への曝露の3条件で処理を行い、DNAの損傷状態を調査した。全試料に対してSTR解析を行い、アリルピーク高、検出されたSTR数やヘテロ接合体ピーク高比率等の変化を分析した。特に紫外線照射と野外曝露下での試料の損傷は激しく、紫外線照射では30日で、野外曝露試料では6ヶ月から大部分のSTR解析が困難となった。損傷試料に有効であると報告されている全ゲノム増幅 modified improved primer extension preamplification(mIPEP)法に着目し、使用するDNA量やDNA分解度がmIPEP法にどのような影響を与えているかを調査した。紫外線照射下の濾紙に染み込ませた唾液試料に対して、mIPEPに用いるDNA量を5ng(実務試料としては豊富なDNA量)、0.5ng(通常のSTR解析に用いるDNA量)、0.05ng(微量 DNA)の3条件でSTR解析を行った。結果、全ゲノム増幅に用いるDNAが5ngあればDNA分解度0.2未満で、また、DNAが0.05ngの微量DNAの場合はDNA分解度0.7以上で全ゲノム増幅を行うことによりSTR解析の改善が示された。現在はスライドグラス上に滴下した試料、野外曝露試料についても解析を進めており、どのようなDNA量やDNA分解度で全ゲノム増幅が必要なのかついて調査している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、全ゲノム増幅(modified improved primer extension preamplification : mIPEP)に必要なDNA量やDNAクオリティーの総合的な知見を得ることで、STR解析の前処理としてのワークフローを構築する。今年度は、DNA損傷試料における全ゲノム増幅法の有効性を明らかにするために、紫外線照射した様々な分解度を持つDNA5ng、0.5ng、0.05ngを用いてmIPEP法の検討を行った。高度に分解した試料(DNA分解度0.2未満)では多くのDNA(5ng)が必要だが、軽度の分解試料(DNA分解度0.7以上)では僅かなDNA(0.05ng)があれば、mIPEP法によるSTR解析の改善が示された。次年度は、野外曝露下の試料やスライドグラス上に滴下した試料においても前述の傾向が示されるのかを検討し、本研究で得られた結果が一般的事象であるかどうかを調査する。一方、mIPEPの効果が見られなかった試料に関しては、全ゲノム増幅とDNA修復を組み合わせることで、STR解析精度が高まるかを調査する。DNA修復は損傷DNA試料のSTR解析に有効であると報告されているため、両者を組み合わせることで相乗効果が期待できる。つまり、未知試料のDNA量とDNA分解度を把握することにより、全ゲノム増幅やDNA修復の必要性を判断することができるため、STR解析の迅速化と精度の向上に繋がると考えられる。
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