血液型の代表的存在であるABO式血液型抗原は、赤血球の膜表面だけではなく、私たちのさまざまな組織や体液、例えば唾液や消化管あるいは呼吸器粘膜などで発現している。一方、赤血球にABO式抗原を有する生物はヒトと類人猿だけであり、他の脊椎動物の赤血球にABO式血液型抗原は発現していない。このことからABO抗原が赤血球膜表面に発現するようになったのは、ヒトと類人猿の共通の祖先が、他の動物種の祖先と分岐した後に生じたゲノム上の何らかの変化が原因ではないかと考えられる。 ヒトのABO抗原の発現はフコース転移酵素に制御され、唾液や消化管粘膜ではFUT2、赤血球や血管内皮細胞、呼吸器粘膜ではFUT1という別の遺伝子が担当する。 最終年度である当該年度も、前年度に引き続き、ABO抗原の元となるH抗原を発現している赤白血病細胞株HELを対象とし、ヒトFUT1に特徴的な配列の1つである上流から2つ目のプロモーター内に存在する霊長類に特異的な反復配列であるAlu配列について、エレクトロポレーション法によるCRISPR/Cas9で同配列全長をターゲットとしたゲノム編集をおこないノックアウト細胞の単離を試みた。Alu配列は318 bpと長く、全長がノックアウトできる確率は塩基置換や数bpの短い欠失よりずっと低く、さらに用いる細胞株であるHELについては導入条件が公開されていない。複数のガイドRNAの組み合わせやHEL細胞への導入条件の検討をおこなった。クローン単離に先行した導入効率の確認で効率の良いガイドRNAとその組み合わせが見つかっておらず、FUT1プロモーター内Alu配列欠失クローンの単離に至っていない。
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