手浴は、看護現場で広く用いられている手指清潔保持の技術である。しかし、手浴の効果は手指の清潔保持の他、主観的な快適感を向上させる報告が多数ある。 また、手浴による温熱効果は手部のみならず全身に波及することが知られている。このことから、手浴には中枢神経系を介した全身的な効果があると考えられるが、手浴の自律神経系への影響については一定の知見を得ていない。すなわち、手浴により副交感神経活動が亢進したという報告がある一方、手浴により交感神経活動が亢進したという報告がある。この矛盾した方向が混在している理由として、手浴の前の対象者の自律神経活動状態により、手浴の効果が異なる可能性が考えられる。本研究の目的は、手浴前の対象者の自律神経活動を実験的に操作し、手浴の効果を調べることにある。 昨年度までの研究により、暗算負荷により交感神経活動が上昇している対象者に手浴を施すと、交感神経活動が低下することが明らかとなっている。また、安静閉眼状態で交感神経活動が低下している対象者に手浴を施すと、交感神経活動が亢進することが明らかとなっている。また、行動学的な解析の結果、暗算負荷中に手浴を施した群では、手浴を施さなかった群に比べて暗算の正答率が有意に高値を示していた。この結果は、手浴が脳機能を亢進することを示した初の知見である。 本年度は、この行動学的知見の裏付けとして、前頭葉の血行動態について解析中した。その結果、左側前頭葉の一部において手浴により酸素化ヘモグロビン濃度の上昇が確認された。左側前頭葉には様々な機能があるが、暗算成績が手浴により向上した行動結果と合わせて考察すると、手浴により注意力や情動性(快情動)が向上した可能性が示唆された。
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