申請時には、損傷のある皮膚に対し、一般に入手できる洗浄剤のうち、どのような皮膚洗浄剤が創傷治癒を妨げないのかを明らかにすることを目的として研究を始めた。 当初計画では、皮膚線維芽細胞の表面に表皮細胞を重層させた表皮3次元培養モデルの表面に傷をつけ創傷モデルを作製し、創傷モデル表面に洗浄剤を添加し、上皮化の過程を検討する予定であった。皮膚創傷モデルに皮膚洗浄剤を添加すると細胞が融解を起こし組織として構造を保つことができず、組織学的評価は困難であった。表皮3次元培養モデルでの実験により、表皮細胞も線維芽細胞も、皮膚洗浄剤より壊死または増殖が阻害されることが示唆された。 そこで、瘢痕治癒のもととなる皮膚線維芽細胞を単層で培養する方法に変更した。培養線維芽細胞に5種類の皮膚洗浄剤(液体ボディーソープ)を希釈し線維芽細胞に10分間作用させた後、専用培地で5日間培養した。培養後、1ウエルあたりの線維芽細胞のコラーゲン産生量をシリウスレッドを用いて定量した。また、1ウエルあたりのgDNA量をヘキスト(蛍光色素)を用いて定量した。 各種皮膚洗浄剤(液体ボディーソープ)1000倍希釈液では、洗浄剤添加前に比べ1ウェル当たりのgDNA量は増えないまたは減少するものが多かった。さらに希釈した洗浄剤では1ウェルあたりのgDNA量は徐々に増えた洗浄剤が多かった。洗浄剤が線維芽細胞の増殖を妨げることが確認できた。また、洗浄剤が希釈されるほど1ウエルあたりのコラーゲン産生量も増加する傾向にあった。これは、細胞数が増加するためであると考えられた。5種類の洗浄剤ともに同様の傾向が見られた。 これらの結果より、皮膚洗浄剤は線維芽細胞の増殖を阻害したが、用いた洗浄剤に差は見いだせなかった。
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