本研究の目的は病棟の組織文化に内在する機能、特に看護師の恥の経験を病棟組織としてどのように捉えるのかという点に着目し、病棟の組織文化のありようを明らかにすることである。具体的には次の2点を解明した。1.病棟における看護職の組織文化に埋め込まれている恥や非難の実態を明らかにする。2.インシデント報告書の活用に寄与できるような組織文化のありようを明らかにすることである。研究方法はエスノグラフィーを用い一般病院内科系病棟1か所でフィールドワークによる参加観察および病棟看護師にインタビュー調査を行った.収集したデータを質的帰納的に分析し,看護師の恥の経験を肯定的に意味づける病棟の組織文化を表すテーマを抽出した. 令和5年度は,研究結果を国際誌に投稿するために論文執筆を行った。英文校正終了後投稿予定である。 研究期間全体を通じて実施した本研究の成果としては,否定的に捉えられがちな恥という感情,看護の文脈における恥の概念について明らかにしたこと,くわえて看護師の恥の経験を肯定的に意味づける組織文化とはどのようなものであるのかを明らかにしたことである.本研究の結果より,病棟組織に個人の失敗や恥を非難する文化と肯定的に意味づける文化があることが明らかになった。個人の失敗を責めないことで,インシデントやアクシデントの早期発見が示唆され医療安全,ひいては,医療の質の向上に寄与できることが示唆された。病棟の暗黙の行動規範の形成や維持には恥という感情が関係することも明らかになった.くわえて,病棟に恥なく聞ける空気があることで,看護師の恥の経験を内省させ自己成長につながることが示唆された. 看護職の組織文化を考えるワークショップに関しては、新型コロナウイルス感染状況や諸事情により開催できなかったが,今後,研究成果を広く社会に公表し看護職の組織文化のありようを考える一助となることが期待される。
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