研究課題/領域番号 |
18K10182
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
中山 登志子 千葉大学, 大学院看護学研究科, 教授 (60415560)
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研究分担者 |
舟島 なをみ 新潟県立看護大学, 看護学部, 教授 (00229098)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 研究指導 / 修士論文 / 看護系大学院 / 修士課程 / 研究指導能力 / 自己評価尺度 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、看護系大学院の修士論文指導に携わる教員の研究指導経験の総体を解明し、指導経験の特徴を考察して研究指導能力向上を目的とするFDに向けた示唆を得ることである。本研究の成果は、修士論文指導に携わる教員が、自身の研究指導状況を理解することに活用できるとともに、研究指導能力向上を目的とするFDのための資料となる。 1.看護系大学院の教育・研究指導に関する情報収集とそれを通した本研究の位置づけ、意義の明確化 看護系大学院の修士論文指導に携わる教員の「研究指導」に焦点を当てた研究に関する最新の情報を収集するため、国際学会に参加した。大学および大学院の教育に関わる研究発表を聴取するとともに、主に米国の修士論文指導に携わる教員と研究指導の現状や指導上の問題点とその対処等について情報交換した。これらを通して、日本国内の教員のみならず、海外の教員も研究指導に困難を感じ、指導の質向上を希求している状況を確認した。また、看護系大学院の教育や研究指導に関わる研究領域が国内外ともに未着手あるいは不十分であることを確認し、本研究の新規性と価値、研究の意義を再認した。 2.看護系大学院の修士論文指導に携わる教員を対象に半構造化面接法を用いて収集したデータの質的帰納的分析 半構造化面接法により10名の教員から収集したデータを基に合計313コードを作成し、コードの飽和化を確認した。作成したコードの洗練に向け、研究者自身による検討を繰り返すとともに、共同研究者によるスーパービジョンを得、最終的に307コードを作成した。これら307コードを用いて、修士論文指導に携わる教員の研究指導経験の概念化に向け、カテゴリ化を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和元年度は、看護系大学院の修士論文指導に携わる教員の研究指導経験を表す概念を基盤に、研究指導能力自己評価尺度の質問項目の作成を目標としていた。 本研究が開発を目ざす尺度の特徴は、質的帰納的研究の成果を尺度の質問項目の基盤にすることである。これにより、現実適合性の高い尺度の開発につながり、このことは、尺度を用いた自己評価の結果が、修士論文指導に携わる教員にとって、指導能力向上に向けた現実的な目標として機能することにつながる。また、このような尺度を開発するためには、その基盤となる質的分析結果の精度の高さが極めて重要になる。このような観点から、令和元年度は、10名の教員から得られた面接データを基にコードを作成し、コードの洗練と飽和化の確認に予想以上の時間を要した。 また、作成した合計307コードを用いて、修士論文指導に携わる教員の研究指導経験を表す概念の創出に向け、カテゴリ化を開始し概念を創出した。しかし、創出された概念は、質的分析結果として洗練の余地を残しており、この概念を基盤に尺度の開発に進むことは尚早であると判断した。今後、本研究が適用する研究方法論の開発者である共同研究者からのスーパービジョンを得て、再度、カテゴリ化を行い、精度の高い概念の創出を目ざす。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、修士論文指導に携わる教員の研究指導経験を表す概念を創出し、考察を通して修士論文指導に必要な能力を導く。その後、修士論文指導能力を基盤に研究指導能力自己評価尺度を作成し、尺度の信頼性・妥当性の検証に向け全国調査を実施する。 まず、飽和化を確認した307コードを用いて、再度、質的帰納的分析を行う。この分析は、看護系大学院の修士論文指導に携わる教員の研究指導経験を表す概念の創出に向け、精度の高い概念が創出されるまで、研究方法論の開発者である研究分担者からスーパービジョンを受けながら繰り返し行う予定である。 その後、創出した概念を考察し、修士論文指導に必要な教員の研究指導能力を導く。これまで、「経験」を表す概念の考察により「能力」を導くための方法は成文化されていない。そのため、本研究により経験概念の考察を通して能力を導くための方法を成文化できれば、研究方法論の進展にも寄与する。このようにして導かれた修士論文指導に必要な能力に基づき、尺度の質問項目を作成し尺度化する。 続いて、作成した尺度の内容的妥当性を次のように検討する。第1に、複数の看護系大学院に就業し修士論文指導に携わる教員約5名を構成員とする専門家会議を開催し、作成した質問項目の適切性や回答の容易さ、追加する質問項目の有無などを検討する。第2に、専門家会議の結果に基づき修正、洗練した尺度を用いて、便宜的に抽出した教員約50名を対象にパイロットスタディを実施する。パイロットスタディの実施に向け、職位や専門領域、修士論文指導経験年数など、可能な限り多様な背景を持つ教員から協力を得られるよう研究者らのネットワークを駆使して協力者を募る。パイロットスタディの結果に基づき、さらに質問項目の洗練を図る。 上記の過程を経て、内容的妥当性を確保した尺度を用いて全国調査を実施し、尺度の信頼性・妥当性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度は、看護系大学院の修士論文指導に携わる教員の研究指導経験を表す概念を基盤に、研究指導能力自己評価尺度の作成を目標としていた。しかし、尺度開発の要となる概念の創出に向けた質的帰納的分析に難航し、予想以上に多くの時間を要した。その結果、尺度の質問項目作成の基盤となる概念の精度に課題を残し、次段階への進行に遅延を来した。そのため、当初、尺度の内容的妥当性の確保に必要な専門家会議やパイロットスタディを行うための経費として予算化していた費用を次年度に繰り越した。 令和2年度は、創出した概念の考察を通して修士論文指導に必要な能力を導き、これを基盤に尺度の開発を目ざす。作成した尺度の内容的妥当性を検討するため、修士論文指導に携わる教員約5名を構成員とする専門家会議の開催と、教員約50名を対象にパイロットスタディの実施を計画している。その後、内容的妥当性を確保した尺度を用いて、全国調査を実施し、尺度の信頼性・妥当性を検証する。 次年度に繰り越した助成金は、翌年度分として請求した助成金と合わせて、会議参加者への謝金、会議費用、パイロットスタディおよび全国調査に必要な質問紙印刷費、郵送費、データ入力費等に使用する予定である。
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