わが国の看護系大学院修士課程は1997年より急激に増加しており、これに起因し教員の不足や経験の過少による教育への影響など深刻な問題に直面している。特に、修士論文指導に伴い教員が様々な問題に直面している状況は、学生の研究指導に直接的な影響を及ぼす。以上を背景に、本研究は、研究指導能力の向上に向け、教員が自身の指導能力の客観的な評価に活用できる尺度の開発を目的とした。 全国の看護系大学院に就業し多様な背景を持つ教員10名を対象に面接を行い、収集したデータを質的帰納的に分析した。その結果、修士論文指導に携わる教員の研究指導経験を表す26概念を創出した。26概念は、教員が適切な時機に指導機会を設定し、学生の個別状況を考慮し研究の進行を支援するという経験を表す。その過程で、指導に難航しながらも打開に向け努力したり、専門家や審査委員など多様な人々と相互行為を展開しながら論文の完成を支援するという経験を表す。これら26概念は、教員が自身の研究指導の状況を客観的に理解するために活用できる。 次に、26概念を基盤に「研究指導力自己評価尺度-修士論文指導用-」の開発に着手した。文献を基に独自に開発した<能力を測定する質問項目作成の方針>に基づき、看護学の修士論文を完成に導く教員の指導能力に適合する行動として24質問項目を作成した。作成した尺度の妥当性の検討に向け、修士論文の指導教員を対象に会議を開催し、質問項目を洗練した。これらの過程と自身の指導経験を通して、修士論文指導と博士論文指導に必要な能力の中には、両者に共通する能力と各指導に固有の能力が存在することを発見した。これを契機に、教員の研究指導能力の向上にさらに有用な研究成果を産出するため、修士課程・博士課程の両課程に必要とされる研究指導能力向上に資するFDプログラムの開発を着想した。この研究は、最終年度前年度応募研究課題として採択された。
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