研究課題/領域番号 |
18K10223
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研究機関 | 日本赤十字広島看護大学 |
研究代表者 |
松本 由恵 日本赤十字広島看護大学, 看護学部, 講師 (00583915)
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研究分担者 |
岡田 淳子 県立広島大学, 保健福祉学部(三原キャンパス), 教授 (40353114)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 手指衛生 / 在宅療養者 |
研究実績の概要 |
近年、日本は諸外国に例をみないスピードで少子高齢化が進行し、厚生労働省は、地域包括ケアシステムの構築を推進している。その上、医療法改正に伴う在院日数の短縮化により、医療依存度の高い在宅療養者は増加してきている。呼吸障害を有する慢性呼吸器疾患患者の再入院の主な原因が肺炎・気管支炎等の感染症であり(石川ら2001)、生方ら(2015)は、在宅訪問診療を受ける約40%が肺炎による入院を要し、その死亡率が高かったことを明らかにしている。入浴不可能な就床患者ほど手指の汚染が著しかったという報告(工藤他,1996)や、活動制限のある患者のほうが自立した患者より手掌の細菌数が多かったという報告(岡田他,2006)、手洗い場への移動が困難な患者の約半数は、手指が1種類以上の病原微生物に汚染されていた(Istenes Nら、2013)という報告があり、流水による手指衛生を十分に実施することが困難な在宅療養者の手指衛生を強化する必要がある。しかしながら、患者の手指衛生が感染防御となり得ることを証明するだけのエビデンスは不足しており、在宅療養者の手指汚染の実態を調査した研究は稀有である。 そこで、当該年度は、在宅療養中の患者の手指および環境表面の汚染の実態を明らかにすることを目的とし、患者の手指とその環境表面に付着する微生物を採取し、定量・同定培養にて菌種および菌量を確認した。 対象は広島県内の在宅療養者のうち日常生活自立度(寝たきり度)B-2またはC-1・C-2の者とした。調査は、研究代表者と研究分担者もしくは研究協力者の2名が対象者の自宅を訪問し、対象者の両手掌・指間とベッド柵やベッドコントローラー、オーバーテーブルなどの環境表面から検体を採取した。細菌学的検査は株式会社キューリンに業務委託し、培養・同定検査を行った。対象総数は9名であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
対象者の基礎疾患は、主に脊髄損傷や筋萎縮性側索硬化症(ALS)であった。同定検査において対象者の手指および環境表面から検出された菌種は40種類であった。対象者一人あたり、手指からは2~8種類の全17種類、環境表面からは1~8種類の全30種類が検出された。手指に存在する微生物は皮膚常在菌と皮膚通過菌に分けることができる。今回、患者の手指から検出された菌には、Staphylococcus epidermidisやCorynebacterium striatumなどの皮膚常在菌だけでなく、Enterococcus faecalisや大腸菌、黄色ブドウ球菌など医療関連感染対策において特に問題となる皮膚通過菌も含まれていた。いずれの患者も両手から細菌が検出され、検出される総菌数は片手で900~148,060,000 cfu/mLと多かった。ある患者の手指およびその環境表面からはAcinetobacter baumanniiが検出された。A. baumanniiは、洗面台など湿潤な室内環境から検出されるが、ヒトの皮膚にも常在する。病原性が弱い菌であるが、多剤耐性を示すこともあり、人工呼吸器を装着している患者の肺炎(VAP)の起因菌として警戒の対象になっている。環境表面で一致した主な分離菌にはMRSAの他、MSSEなどの薬剤耐性菌も存在していた。 対象となる患者が援助をうける県内の訪問看護ステーションおよび介護事業所の施設長に対して、研究代表者が、研究目的、方法、プライバシー保護、研究対象者の選定等について、口頭および文書で説明し、研究協力の承諾を得た上で、それぞれ5~6名の対象者候補を選定してもらい、40名を調査予定であったが、認知症があるなどの理由で対象者が見つからず、調査に協力してもらえた対象者が9名と少なかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は3年間で計画しており、1年目(平成30年度)は、医療依存度の高い在宅療養者40名の手指および環境表面の微生物を定量・同定培養し汚染状況を把握する予定にしていたが、対象者が9名と少なかったため、次年度も引き続き調査を継続する。対象者の確保に関しては、すでに研究協力の承諾を得ている訪問看護ステーションおよび介護事業所と連携を密にとり、対象者の選定を継続的に依頼するとともに、新たに依頼する施設を増やし対象者確保に努める。在宅療養者の手指衛生の実態について得られた結果については、国内の感染関連の学会あるいは看護系の学会で発表する。 また、2年目の今年は、在宅で実施可能な患者の手指衛生の方法を実験的に検討することを予定していたため、1年目の調査と平行して実験検証を行うなど、可能な限り研究計画の立てなおしを図る。検証は、実験室で条件を設定し、手浴、ウェットティッシュ、おしぼりタオル、速乾性手指消毒薬など、さまざまな手指衛生の方法から患者の手指の微生物除去の効果を確認する。さらに、組み合わせや手順の簡素化で遵守率が向上する方法を開発する。 令和2年度は、在宅療養者およびその介護者に手指衛生の方法を指導し、手指衛生を1週間強化する。手指衛生の強化実施前と実施後1週間の2回、患者の両手掌および指間から検体を採取し、患者の手指に付着している菌種と菌量を同定し、手指衛生による微生物除去の効果を証明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
対象となる患者が援助をうける県内の訪問看護ステーションおよび介護事業所の施設長に対して、研究代表者が、研究目的、方法、プライバシー保護、研究対象者の選定等について、口頭および文書で説明し、研究協力の承諾を得た上で、それぞれ5~6名の対象者候補を選定してもらい、40名を調査予定であったが、認知症があるなどの理由で対象者が見つからず、調査に協力してもらえた対象者が9名と少なかったので、データ収集にかかる旅費や研究補助者への謝金をあまり使用しなかった。また、細菌学的検査は株式会社キューリンに業務委託し、培養・同定検査を行ったが、キューリンからの請求が未提出であるため、その他の金額が少なくなっている。今後、検体検査を引き続き依頼する予定であり、データ収集にかかる費用および当該年度の検査費、次年度の検査費は必要である。
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