近年、日本は地域包括ケアシステムの構築を推進し、医療依存度の高い在宅療養者は増加してきている。呼吸障害を有する慢性呼吸器疾患患者の再入院の主な原因が肺炎・気管支炎等の感染症であり(石川ら2001)、生方ら(2015)は、在宅訪問診療を受ける約40%が肺炎による入院を要し、その死亡率が高かったことを明らかにしている。入浴不可能な就床患者ほど手指の汚染が著しかったという報告(工藤他,1996)や、活動制限のある患者のほうが自立した患者より手掌の細菌数が多かったという報告(岡田他,2006)、手洗い場への移動が困難な患者の約半数は手指が1種類以上の病原微生物に汚染されていた(Istenes Nら、2013)という報告がある。 本研究は3年間で計画しており、初年度は在宅療養者の手指とその環境表面の微生物汚染の実態把握を行った。その結果、手浴を実施している在宅療養者はいなかった。2019年度は、健康な看護学生15名を対象に在宅で実施可能な手指衛生の方法の実験的検討を行った。その結果、速乾性手指消毒薬の使用が最も効果的であることが明らかになった。その後、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響により研究は全く進まなかったが、COVID-19の行動制限が少しずつ緩和されてきた2023年度以降、在宅療養者およびその介護者に手指衛生の方法を指導し、手指衛生の強化実施前と実施後1週間の2回、患者の両手掌および指間、対象者の周辺環境から検体を採取し、患者の手指に付着している菌種と菌量を同定し、手指衛生による微生物除去の効果を検証すべく調査を行った。対象者の手指衛生を強化することにより対象者の手指から検出される総菌数は有意に減少した。また、対象者の菌数減少に伴い、対象者介護者が最も接触するベッド柵の菌数が減少することが明らかになった。2024年度は、これらの調査結果を学会で報告した。
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