研究課題/領域番号 |
18K10248
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研究機関 | 東京医療保健大学 |
研究代表者 |
松尾 まき 東京医療保健大学, 医療保健学部, 講師 (00783549)
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研究分担者 |
鈴木 英子 国際医療福祉大学, 医療福祉学研究科, 教授 (20299879)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 離職意向 / ワーク・ライフ・バランス調節力 / SOC / 看護職 / 尺度開発 / 縦断研究 |
研究実績の概要 |
看護師のワーク・ライフ・バランス(WLB)は職業キャリア成熟度を高め,バーンアウトや離職意向を低下させることが報告されている。そのため仕事と生活の満足度向上や健康維持、離職率低下が期待できWLB促進が望まれている。WLBの既存尺度は職場への認識や個人のWLB実現度の主観的評価が可能な尺度であり,自らWLBを良好にするための行動には着目していなかった。本研究の目的は看護師がWLBを獲得し自分で調節する行動力を評価できるWLB調節力尺度を開発することである。 尺度開発のプロセスとして自由記述の調査データと文献検討に基づき34項目からなるWLB調節力尺度原案を作成した。3施設の医療機関の看護師380人を対象に原案に基づく質問紙調査を実施し,信頼性,妥当性を検証した。 WLB調節力尺度原案の総合得点平均値で性別,雇用形態別による平均値に差が認められ,分析の対象をもっとも有効回答者が多い常勤女性看護師222人とした。WLB調節力尺度原案34項目は項目分析により15項目が削除され,19項目に対し探索的因子分析を実施した結果11項目2因子のWLB調節力尺度となった。第1因子は《サポートを求める相談力》,第2 因子は《自己コントロール力》と命名した。確証的因子分析によりモデルの適合度はGFI = 0.930,AGFI = 0.893,RMSEA = 0.066(p < 0.01)であった。本尺度と「看護職の仕事と生活の調和実現度尺度」で正の相関,「ワーク・ファミリー・コンフリクト(WFC)尺度」で負の相関を認め基準関連妥当性を確認した。尺度全体のクロンバックα信頼係数は0.78,再テスト法による級内相関係数は0.66であった。 WLB調節力尺度は一定の信頼性,妥当性が検証された。今後はこの開発尺度を使用し,看護職のWLB調節力が離職意向に与える影響を明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では看護職の離職意向についてワーク・ライフ・バランス(WLB)の実現度の認識ではなく,WLBの調節力が離職意向に影響を与えているかを明らかにするため,予備調査をもとにWLB調節力尺度を開発し,その有効性を検証するために以下の研究を段階的に行う計画である。 【研究1‐1(予備調査)】看護職のWLB調節力を明らかにするための質的分析 【研究1‐2(尺度開発)】WLB調節力尺度の開発および信頼性・妥当性の検証 【研究2(本調査)】看護職の離職意向に影響する要因の量的分析 平成30年度は看護師のWLB調節力尺度の開発を実施し,開発尺度の信頼性と妥当性の検証までを予定した。研究1‐1ではWLBを自己調節する行動力を測定できる尺度がないため,予備調査として看護職にWLB獲得行動に関する自由記述式の質問紙調査を実施した。この調査でWLBを自己調節する行動力を質的に分析し,研究1‐2の尺度原案作成における基礎資料とした。研究1‐2の尺度開発過程では,質的分析から抽出された要因と先行研究を基にWLB調節力尺度原案の作成をした。内容妥当性の検討後に再テスト法を含む尺度開発調査を実施した。分析は項目分析後に構成概念妥当性,基準関連妥当性,標本妥当性により検討を行い,信頼性は信頼係数の算出と時間的安定性の検討を行った。確証的因子分析によりモデルの適合度を確認し,おおむね信頼性,妥当性が検証されたWLB調節力尺度が完成した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は看護職の離職意向の影響要因としてWLB調節力およびSOCが影響しているかについて明らかにし,職場環境および組織背景を含めた視点で検討し,離職意向軽減に向けての示唆を得ることである.研究のデザインは前向きコホート研究とし,ベースライン調査でコホートを設定し,常勤看護職のWLB調節力,SOC,個人要因,職場環境要因,組織要因,バーンアウトを調査し,その後コホートを6ヶ月間追跡し離職意向を評価することで,ベースラインにおける常勤看護職員のWLB調節力およびSOCが離職意向に与える影響を明らかにする方策である.
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次年度使用額が生じた理由 |
看護科学学会に参加予定であったが,特発的な事情により参加できなくなった.そのため旅費,学会参加費等にかかる支出が不要になった.また,研究者の所属機関の変更に伴い,研究分担者との打ち合わせの際に生じる交通費が減額された.さらにデータ入力費については,見込み額よりも安価に依頼できたため繰越金が発生した. 使用計画として,データ解析に役立つ研修会の参加や国外への論文投稿など,研究成果発信に向けて取り組むための資金に充てる.
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