研究課題/領域番号 |
18K10275
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
川下 由美子 長崎大学, 病院(歯学系), 助教 (10304958)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 頭頸部 / 放射線治療 / 口腔管理 / 予防バンドル |
研究実績の概要 |
放射線性口腔粘膜炎の予防と治療法がないことが報告されており、我々は独自のプロトコールを作成し、耳鼻咽喉科と放射線科と連携して放射線治療に伴う口腔管理を行っている。 このプロトコールの具体的な内容は、①放射線性顎骨壊死予防のため放射線治療前に感染源となり得る歯の抜歯 ②散乱線による口腔粘膜の余分な被ばくによる口腔粘膜炎の重症化予防のためのスペーサー作成 ③放射線性口腔乾燥症に対するピロカルピン塩酸塩(サラジェン)の投与 ④放射線性口腔粘膜炎へステロイド外用薬の応用 ⑤保清と保湿に重点をおいた専門的口腔清掃と清掃指導 ⑥放射線性口腔乾燥による自浄作用低下による多発性う蝕予防のためのフッ化物局所応用である。これらの①から⑥の全てを行う必要があると考えられるので「予防バンドル」と名付けている。この予防バンドルにおいて口腔粘膜炎の重症化抑制効果があるか、多施設共同前向きランダム化比較試験で解析した。その結果、②のスペーサー装着 ③のサラジェン投与と④の口腔粘膜炎へデキサルチン軟膏塗布を行うことは、⑤の口腔ケアのみと比較して放射線治療単独において重度の口腔粘膜炎の抑制が認められた。一方、抗癌剤併用と分子標的薬併用放射線治療では口腔粘膜炎の重症化抑制効果が見られなかった。 (Kawashita Y. et. al. Int J Oral Maxillofac Surg. 2019) そこで今度は、放射線治療中にみられる感染症に着目し、口腔カンジダ症と誤嚥性肺炎のそれぞれの発症リスク因子を検討した。さらには、放射線性口腔粘膜炎は苦痛を伴うため、放射線治療中のQOL向上のためには放射線性口腔粘膜炎の疼痛コントロールが非常に重要である。そのためには、全身の疼痛コントロールと局所の疼痛コントロールが必須だと考えられ、両者の疼痛コントロールが行われることで重度の口腔粘膜炎を抑制できるか検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
頭頸部への放射線治療に伴い、独自のプロトコールである「予防バンドル」を用いて口腔管理を行っている。しかし、口腔管理を行っていても感染症が認めらる。そのため、今まで報告されていない口腔カンジダ症と誤嚥性肺炎発症について観察研究を行った。 放射線性口腔粘膜炎にステロイド軟膏を塗布することは口腔カンジダ症を誘発することが言われているので、頭頸部がん放射線治療患者300例を対象にして観察研究を行った。その結果、口腔カンジダ症は300例中75例(25%)にみられたが、口腔カンジダ症は抗真菌薬の加療により短期間で治癒した。さまざまな全身的,局所的因子と口腔カンジダ症発症との関連性についてCox回帰により多変量解析を行った結果、リンパ球数の低下とGrde 2以上の口腔粘膜炎の2つの因子が独立したリスク因子として認められた。一方、ステロイド軟膏塗布はリスク因子ではなかった。観察研究のため背景因子にバイアスが存在すると考えられるため、傾向スコアマッチング法を用いてさらに解析したところ、マッチング後の90例においてもステロイド軟膏塗布と口腔カンジダ症の発症には有意な関連性は認められなかった。 (Kawashita Y. et. al. Medicine. 2018) 続いて、放射線治療に伴う口腔管理を行っても誤嚥性肺炎が発症し発熱のため放射線治療が中断されることがみられたため、380名を対象に観察研究を行った。その結果、誤嚥性肺炎発症は有意に放射線治療中断との関連がみとめられた。全身ならびに局所の因子と誤嚥性肺炎発症との関連について二項ロジスティック回帰分析を用いて多変量解析を行った結果、下咽頭癌であること、Grade 3以上の口腔粘膜炎があること、経鼻経管栄養であることとアルブミンの低下があることと有意な関連が認められた。(口腔ケア学会誌2019 プログラム・抄録集 p.189)
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今後の研究の推進方策 |
放射線性口腔粘膜炎はほぼ100%発症し、化学療法併用や分子病的薬併用に伴い口腔粘膜炎は重症化し患者に苦痛をもたらす。それにも関わらず、口腔粘膜炎の予防と治療方法は確立されていない。我々が行っている口腔管理方法「予防バンドル」において口腔粘膜炎に対するステロイド軟膏塗布がある。これは局所の炎症をコントロールすることで口腔粘膜炎の治療として行っている。しかし、この方法では放射線治療単独においては口腔粘膜炎の重症化を抑制することができるが (Kawashita Y. et. al. Int J Oral Maxillofac Surg. 2019)、 抗癌剤併用や分子標的薬併用の放射線治療による口腔粘膜炎の重症化を抑制することはできなかった。重度の口腔粘膜炎に対しては、全身の疼痛コントロールも必要であり、WHOの疼痛コントロールに従って、アセトアミノフェン、NSAIDSとオピオイドの使用がある。ところが、全身の鎮痛剤の投与と局所への抗炎症薬の投与をおこなっても重症化を抑制することができないことがしばしばある。非小細胞肺癌患者において早期に緩和ケアを行うこととでQOL向上が認められたことが報告された。(Temel JS. et. al. N Engl J Med 2010) そこで、放射線性口腔粘膜炎のGrade 2の段階で緩和ケアを開始して、オピオイドを応用して疼痛コントロールを行うことで口腔粘膜炎の重症化抑制効果を期待できると考えている。そのためにはまず、今まで口腔管理を行ってきた患者対象にして観察研究を行い、全身と局所の疼痛コントロールが重度の口腔粘膜炎を抑制できたか検討したいと考えている。その後、介入研究としてGrade 2の口腔粘膜炎の時期から緩和ケアを行い、Grade 3の重度の口腔粘膜炎が発症するか検討したいと考えている。
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