研究課題/領域番号 |
18K10289
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
末安 民生 佛教大学, 保健医療技術学部, 教授 (70276872)
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研究分担者 |
西池 絵衣子 兵庫県立大学, 看護学部, 講師 (90559527)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 地域包括ケア / 集団のダイナミクス / リフレクティング・プロセス / 参加意識 / 内的会話 |
研究実績の概要 |
本研究の取り組みは、2020年を研究最終年度としていたが、COVID-19の感染拡大に伴って研究対象施設の2か所目の施設調査中に一時中断した。2021年度に入り、対象施設、研究対象者との協議をon-lineで行い、同12月に対面調査を再開した。ところが感染再拡大の状況となったために再々協議を行って再度中断している。本研究は対象者に研究目的と方法を告知し、任意で参加決定した看護師らが研究対象者として選定されているが、このような非常事態であるため、研修対象者との間で相談し、連絡調整係を設置してもらうこととなった。全員とのon-line協議は、研究対象者との間で、研究参加の意思と参加意欲を保つための補助的手段として告知後に研究内容の質問事項などに直接に抵触しない範囲で行うことでプログラムへの参加への裁量を行える自由度を担保している。 このような手続きは研究の再開時への影響を最小限度に抑えながらも中断が2年を超える現状から参加者の参加態度やプログラムへの関心や参加意識の変化が、研究に影響を及ぼさざる得ないことからの必要な調整であると考えている。 昨年までの中間評価に加えて、研究目的である中断という障害があっても、医療従事者間の対話を重視した早期介入のための教育への関心は継続していると判断できる。第二調査対象施設においても臨床状況を反映した場面に沿って対話実践場面の提案を受けて試行にまでは進捗しており、研究計画に沿って支援場面の展開によって患者を取り巻く集団のダイナミクスやスタッフ間の意思の疎通について研究対象者らがそれぞれの臨床経験年数やスタッフとの協働作業を思い起こしながら対話方法を習得しようとする態度の変化、内的会話への意識づけに成果が得られるものと推測できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
第1研究対象施設では、研究プログラム実施終了時のインタビューを終了した。第2の研究対象施設である病院での調査は中断されているために調査対象者間の比較を行うことはできないが、この2施設の設置背景などの特性(病院設置県の地域性、キャッチメントエリア、診療規模、職員教育体制など)はあらかじめ設定し、我が国の精神病床の平均病床数となる第1研究対象施設と、それを上回るものの施設の周辺には精神科病院がない第2研究施設として選定した。 1施設目の調査結果としては、研究参加者は13名(精神科経験年数6か月~29年)であり、研究協力者は臨床現場において「新たな会話が展開していく可能性をひらいていくよう努める」対話や「家族(役)と専門家(役)がそれぞれに会話し、互いを観察し、逆転して観察される側の立場をくり返して内的対話として受け止めていく」いうリフレクティングプロセス(以下、RP)には慣れていくことは難しかった。しかし、回数を重ねるごとに臨床場面の再現を通してそれぞれの立場に思いを馳せる再体験を経験し、実際のケアの場面を振り返り始めた場面も見られた。対話とは、参加者が新しい方向を感じ考えるためのものであり「望ましい変化」を生み出すための方法である。研究参加者からは、「面談は患者、家族の話を聞く場だが、ある程度方向性を定めてその方向に誘導してしまう」ことが臨床の日常的な対応である。これを変えていくことは画期的だが困難でもあると指摘がなされた。そのためトレーニングが必要である。これまでの経験知を変容させるためRPのトレーニング自体を安心した場で実施することが必要であり、RPの体験が臨床場面で効果的に取り組めるような活用方法も具体的に考える機会が必要であるという指摘がなされた。第2調査施設での検証を踏まえつつ、地域包括ケアの展開を意識したRPの活用を継続的に取り組むことに意義があることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
調査の再再開は、COVID-19の感染状況の動向によるが、対象施設と調査対象者とのon-lineや連絡員の設置によって円滑に進められると想定している。調査の再開を前提に最終的に研究対象の2施設間での結果を比較しつつ分析し、看護師個人の資質と地域包括ケアに適合した医療機関と地域ケアにおいて有効な一貫性のある支援技術と普及していくことを念頭に細部も検討しておきたい。そのため、引き続き看護師の相互関係を通した経験交流の深化、医療チームにおける看護師の状況判断や介入方法、RPの院内看護教育システムへの反映の可能性などについて検証結果を検討する。2施設とはいえ総計30人のキャリアの違いのある看護師のRPの体験は、施設の相違などは勘案しながらスタッフ教育と地域包括システムの充実に寄与するものと考えられる。今後は、研究テーマである地域包括ケアの展開時に看護師の能力が生かされるような視点と方法をRPの機能を活かして実施していける学習環境の風土つくりなども含めて検討する。研究結果の分析に当たっては、研究結果について研究者と研究対象者がどのように相互関係を展開しながら相補的に参加して学習することができたのか、教育プログラム実施中の具体的な場面の展開の分析などを通して、現在の現任教育方法の見直しに寄与できる方向性も検討課題としたい。臨床での活用に向けて研究対象者の活発な討論がみられていたことは2施設ともに共通していたため、精神科看護師がRPの学習を通して対話を用いた介入の精度は高められ、ケアの質の向上につながることが推察される。教育方法の洗練化は調査の進行中にも提案できる可能性があると考えられた。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度コロナの影響で実施できなかった研究施設へ調査旅費が必要になる。また、研究協力者への謝金やスーパーバイズへの謝礼、計画していた海外渡航への旅費などが必要となる。
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