研究課題/領域番号 |
18K10310
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
辰巳 有紀子 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (90759432)
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研究分担者 |
荒尾 晴惠 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (50326302)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 悪性脳腫瘍 / 家族 / 看護 / ニーズ / 苦悩 |
研究実績の概要 |
2019年度は2018度中に開始した第一段階の研究を継続して行った。本研究は認知障害を発症した悪性脳腫瘍患者の家族の苦悩・ニーズと看護ケアの実態について明らかにすることを目的として行われているものである。 若年で発症し進行が早いことが多い悪性脳腫瘍(原発性・転移性)患者の家族には多くの負担がかかる。特に患者が認知障害を発症すると代理意思決定を含め、家族に著しい負担がかかることになり、家族に対する看護支援が求められている。しかし患者家族に対してどのような看護支援が行われているかは明らかでなかった。そこでその実態を明らかにすることを目的として看護師を対象としたインタビュー調査の分析に取り組んだ。 逐語録作成後、要約、一文化、オープンコード化、カテゴリー化を実施した。これにより悪性脳腫瘍患者・家族への看護支援として、【患者の認知機能低下前にEOLDを実施するための支援】、【患者状態の急速な悪化に伴う家族の混乱への視点を持つ】、【家族の理解や受容段階の確認】、【家族の能力をアセスメントする視点】、【家族にとっての病前の患者像の理解と尊重】などの支援や支援の視点が語られた。一方で【疾患の特性を考慮した早期からの意思決定支援の難しさ】、【疾患の特性としての意思疎通の困難が生み出す、家族内の意向調整の難しさ】などの支援の難しさが語られた。 特徴的な内容として、疾患の特性として患者の認知機能低下を回避することはできず、意思表示をすることができるうちに患者の意思を抽出する工夫や、治療初期からのACPの早期導入の必要性について語られた。さらにその実現のために、看護師の体制を変えたり、ルール作りをするといった工夫や、治療初期からのMSWや他部門と連携を図るといった工夫が明らかになった
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度に実施開始した研究1-1についてはおおむね終了した。2019年度に行う予定 であった研究1-2の目的は、患者の家族側から見た苦悩・ニーズの認識を明らかにす ることであった。 先行研究を再度検索した結果、家族の苦悩やニーズとそれに対する支援に関して、21件ヒットした。そのうち、小児患者の家族に関する文献7件を除く、14件の文献を得ることができた。概観したところ、悪性脳腫瘍患者の介護者(家族)に特有の心理的問題、悪性脳腫瘍による認知機能低下のある患者の家族の介護負担の高さ、患者の変化へのショック、医療者とのコミュニケーションの難しさがあった。一方、家族中心のケアへのアプローチが家族の対処能力の維持向上にとって重要であることが指摘されていた。また、家族の負担軽減に関連していることとして、家族の団結などの家族機能、共感的な専門家の存在やソーシャルサポート、家族のケア技術習得が示されていた。同時に、患者の社会性の維持にとって、家族自身のレジリエンスや情緒的サポートが必要であったと指摘されていた。さらに看護介入のタイミングについては、悪性脳腫瘍患者の家族を対象とした縦断的調査の結果、初期の段階で手厚い支援により低レベルのストレスで経過できることが最も重要であることを示しており、研究1-1の結果同様、早期からの看護支援が重視されていた。 以上のように、文献から患者の家族側から見た苦悩・ニーズの認識の概要を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年は、質的調査、文献検討結果をもとに家族エンパワーメントに関する仮説モデル(案)を研究班で作成し、その後エキスパートパネルを開催し専門的な意見を得ることで、家族エンパワーメントに関する仮説モデルを作成する。 そのうえで、家族エンパワーメントに関する仮説モデルの実証を目的とした調査のための質問紙を作成し、悪性脳腫瘍家族を対象に調査を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は「悪性脳腫瘍患者の家族の苦悩・ニーズ」について明らかにすることを目的として活動した。研究1-1の分析および文献検討等を通じて明らかにしたが、それらにかかった経費が予定よりも低かったため、予定と差額が生じた。 次年度はこれまで明らかになった悪性脳腫瘍患者の家族の苦悩・ニーズとそれに対する看護の概要に基づき、悪性脳腫瘍患者の家族に対する看護ケアモデルの構築を目指し、悪性脳腫瘍患者の家族を対象とした質問紙による量的調査を行う予定である。 そこで、1:質問紙調査に関する費用(封筒代、用紙代、印刷代、往復郵送費、収納ケース代、回答者への謝礼)、2:事務・発送作業および質問紙のデータ入力・管理の人的補助費用(アルバイトを年間100時間予定)、3:入力・分析に用いる物品費(パソコン、USB等の保存用品)、4:研究1-1で得た内容の学会発表費用(印刷費、出張費、参加費)、5:関連研究の最新情報を収集するための学会参加費用(出張費、参加費)ほかが必要である。
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