研究課題/領域番号 |
18K10333
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研究機関 | 天理医療大学 |
研究代表者 |
林 みよ子 天理医療大学, 医療学部, 教授 (50362380)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 退院支援 / 脳血管疾患患者 / 家族介護者 / 熟練看護師 |
研究実績の概要 |
今年度(2年目)は、全国の脳血管疾患患者・家族への退院支援の実態を質的に明らかにすることを目的とし、臨床経験10年以上の熟練看護師を対象とした面接調査を行った。協力施設が非常に少なく、次年度もデータ収集を継続する予定であるが、現時点までに協力の得られたデータを分析した。 対象者は、急性期病院に勤務する10名の看護師であった。彼らは、まず発症前の患者と家族の生活を確認した上で、患者や家族が望む今後の生活・人生を捉え、その実現のために、必要な援助をその家族にとって最適なタイミングを見計らって実施し、関係する多職種の専門的な知恵を集結させてより良い援助を実施していた。この実践は、彼らがこれまでに蓄積してきた知識を活用して患者の身体状態と家族の心理状態から「ここまでできる」ことを判断し、獲得してきたスキルを使って突然の出来事に苦しみ・戸惑う患者や家族にタイムリーに接近することで可能にしていた。 以上のことから、彼らの行う退院支援は、患者や家族の生活を、「日常という日々の行動として捉えるミクロの視点」と「人生という将来を見据えたマクロの視点」、さらに、「看護師としての専門的な視点」と「患者や家族の感覚で捉える普通の視点」で捉え、得た情報を総合的に判断して、患者や家族の望む人生を叶えるための現実的な方法の獲得を支援していた。つまり、彼らにとって、退院支援は特別な援助ではなく、患者や家族の将来や日常生活に必要だと判断された援助を行うことを続けた結果、その先に退院が現実のものとなると考えられた。彼らのこのような実践は、10年以上の臨床経験の中で、専門的で高度な知識やスキルを蓄積すること、実践の中で体験したことを心に留めること、常により良い看護を求めて努力すること、そして、この根底には、真から患者や家族に向き合い、退院後の生活に関心を寄せる姿勢がもたらすものと推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では、1年目に実施した質問紙調査に協力した施設に依頼し、参加者を50名リクルートする計画であった。 しかし、調査依頼に対して返信もない施設も多く、協力意思を示した施設が非常に少なかった。これは、施設の看護部の長に参加者条件のあう看護師を紹介いただき、対象者と日程を調整し、当該施設内で面接する方法としたことで、施設側に負担を感じさせた可能性がある。加えて、研究者の本務における業務量の予定外の増加によって、研究に着手する時間が減少した結果、研究エフォートが高くなったことも一因である。
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今後の研究の推進方策 |
年度をまたいで調査協力を求める予定であったが、今年度前半はコロナ禍による医療施設における看護師の身体的・心理的負担から協力依頼できる状況ではないと判断される。 当初、過去2年間で収集した脳血管疾患患者・家族の退院支援の量的・質的な実態調査のデータを解析して、脳血管疾患患者・家族の退院支援プログラム試案を作成する計画であった。そのため、コロナ禍が鎮静化するまでの間、これまでに得られたデータの解析および最新の国内外の関連文献をレビューして試案作成を進め、状況を見ながら質的実態調査の協力依頼を継続する。今後の調査では、参加者数を確保するために、協力の得られた看護師から次の参加者を紹介いただく雪だるま方式の有意サンプリング法に変更することを考慮する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、脳血管疾患患者・家族の退院支援の全国的な面接調査として参加者50名で計画しており、調査地に出向くための交通費と面接データのテープ起こしが助成金額の大半を占めていた。しかし、調査協力施設が少なく、参加協力者はこれまで10名と少なく、面接調査を次年度まで継続する必要があり、それに伴い、次年度使用額が生じた。
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