今年度は最終年度であり、研究成果の公表とまとめを行なった。まず、「統合失調症者がもたらす一般就労の意味」を日本健康医学会雑誌へ発表した。統合失調者にとって一般就労がどのような意味をもっているのかを明らかにすることが目的であった。一般就労している統合失調症者12名に半構成的面接を行い、逐語録を内容分析した。統合失調症を有する自分との対峙、一社会人になることへの促しの2つのカテゴリを抽出し、一般就労は、病気・障害を抱える自分と向き合い、誇りの再獲得をもたらすものであった。2つめに、「雇用者が捉える精神障害者の就労と支援」をストレス科学へ発表した。雇用者が精神障害者の就労をどのように捉えているかと支援の実際を明らかにすることが目的であった。精神障害者を障害者枠で雇用している企業の人事担当者8名に半構成的面接を行い質的に分析した。対象者は、働くことは精神障害を有する社員が主体的な生き方を築くために必須であり、精神疾患の特性が影響する言動や業務遂行力に関するわからなさをもち、精神障害を有する社員と健常社員が「共働」できる職場づくりを試行錯誤していた。そして、仕事力成熟の支えと自分らしい働き方の促進を図る職務創出モデルの検討が今後の課題となった。 最後に、5年間にわたる本研究について、計画準備・実施・完了に至る事項を含めた成果報告書を作成した。諸外国における精神疾患や精神医療に対する偏見は未だにあり、精神医療福祉従事者は、精神障害者の就労の機会をいかに提供するか、企業との連携や働き方の幅を広げることに力を注いでいた。国内では、就労とその支援について、精神障害者本人、精神医療福祉従事者、雇用する企業それぞれに捉え方と課題があり、特に就労の定着は一筋縄ではいかないものであることを再認識した。三者間で擦り合わせることができる点を見出し、新たな支援法を検討する必要性が示唆された。
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