研究課題/領域番号 |
18K10399
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研究機関 | 広島国際大学 |
研究代表者 |
木戸 久美子 広島国際大学, 助産学専攻科, 教授 (40269080)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 産後うつ病 / 男性 / レジリエンス / 忘れられた支援 / 経済状況 / パートナーとの関係 / 発達特性 |
研究実績の概要 |
2018年は、父親の産後うつ病についてこれまでに報告されている研究論文を量的研究と質的研究の双方についてレビューを行った。まず最初に父親産後うつ病に関する論文のうち質的研究論文を検索し、父親の産後うつ病における課題を明確にすることを目的としたメタ・シンセシスを行った。メタ・シンセシスの結果、「パートナーとの相互作用」「‘産後うつ’とレジリエンス」「支援を妨げるもの」「忘れられた父親への専門職サポート」「支援ニーズ」を父親の産後うつ病の実情を表すテーマとして抽出した。また、検索された研究論文発表年から、国外における父親の産後うつ病に関する質的研究の歴史は浅く、国内においてはまだ質的研究として発表されたものはない。父親の産後うつ病は、その要因の解明とともに、当事者支援がなおざりにされ苦しんでいる現状が伺えた。ついで、父親産後うつ病に関する論文のうち量的研究を検索し、男性の産後うつ病の調査方法および疫学調査、発生要因について明確にするためのシステマティックレビューを行った。父親の産後うつ病発症に関する研究は、妊娠末期から産後1年以内までの時期で調査されていた。男性の産後うつ病発症率は、対象地域限定および対象者数の関係で1%台~30%弱までと調査毎にばらつきが大きかった。本邦では、調査地域が限定されており、対象者数は少ないが10%台の発症率が報告されていた。スクリーニングにはエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)が汎用されていた。男性の産後うつ病発症危険因子は、母親の産後うつ病発症と関連しているというものから、母親とは関連がなく、父親の仕事や経済的状況が影響しているというもの、また、男性側が母親(パートナー)との関係性が関連しているという報告はあるものの、父親の発達特性を要因としてあげたものは認められなかった。 また、2019年の調査実施に伴う調整等を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年は、本邦における産後うつ病の実態調査実施前の準備として、まずは、これまでに報告されている質的研究のメタ・シンセシスを行い、支援needsの抽出を行うことを予定していた。父親の産後うつ病の支援needsはあるものの、専門職支援はなされていないことがわかった。ただし、支援を妨げる要因として父親自身が支援を必要としていることを知られたくないと思っているなど、そのアンビバレントな心理状態がこれまでの研究から明らかにされた。さらにこれまでに報告されている量的な研究についてシステマティックレビューを行い、父親の産後うつ病の疫学、発生要因と今後の研究課題が明確にできた。また、これまでの研究からは、父親の産後うつ病の発生と発達特性との関係を論じたものはないことから、本邦における調査においてこの点を盛り込む必要性をさらに確認できた。今後の本邦における調査実施に向けて、3地域における調査依頼は口頭では了解を得ており、具体的な調整を進めている途上にある。また今年度の文献レビュー結果をもとに実際の調査時期や方法など具体的方法論の検討を行っているが、現在、倫理審査申請を5月に予定し準備をすすめていることから、おおむね順調に研究は進行中であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度の研究において明らかにできた欧米における父親の産後うつ病の疫学、調査に使用する産後うつ病のスクリーニングの方法、発症要因として挙げられていた、母親(パートナーである女性)との関係性、経済的な状況および精神面のwell-being、また父親からの支援needsがあるという事実などを基に本邦における調査を企画する。 疫学調査は、研究者の所属する大学のある県内において、乳幼児健診の機会をとらえ実施する予定で、2019年度は横断的な調査を行う。順次、調査協力の内諾が得られている他2都市においても同様に調査を実施する。調査には、独自の質問紙を作成するが、これには、これまで明らかになった産後うつ病の発症要因としてあげられている母親(パートナーである女性)との関係性、経済的な状況および精神面のwell-beingに加え、父親の発達特性について父親自身がどのように認識しているかを問う内容を追加することを考えている。産後うつ病のスクリーニングには、エジンバラ産後うつ病質問紙、CES-Dを使用する予定である。今年度の調査によって協力が得られる場合には、父親にインタビューをすることも考えている。また、父親の発達特性と産後うつ病の関連性を検討する材料として、発達障害児の療育にかかわる専門職を対象として、子ども親の発達特性への認識と育児困難の自覚や訴えが実際にあるのかどうかを調査する予定である。 データの管理や分析にNVivo(データ管理・分析ソフト)を使用するが、操作方法に習熟することで、より丁寧な分析が可能になると考えている。次年度は、さらに父親へのインタビューやその他の質的データを分析する機会が増えると想定されることから、NVivoの習熟度を高める研修に参加すること、研究協力者間でデータの分析などについて勉強会を実施することも検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年は、調査実施準備を研究協力者とともに実施できたことから、当初予定していた専門家からのアドバイス等を求める必要がなかったため、それに伴う謝金の支出をしていない。また、一方で大学内の設備等が十分ではなかったため、PC周辺機器(消耗品)に当初予定していなかった支出を行った。以上のことより、次年度使用額が上記のようになっている。 2019年より研究代表者が所属を変更になり、施設設備が充実していることから、当初予定していたデータ管理に伴う設備の支出は必要ないため行わない。物品費としては、データ収集に伴い必要時PC周辺機器および文具類を支出する。会議費として、調査実施の協力先が変更になったこともあり、打ち合わせ調整に伴う会議費を支出する可能性がある。旅費として、データ分析の精度をあげるためNVivo活用に関する研修会旅費、勉強会のための旅費、本年度の成果発表に伴う旅費を支出する。人件費としては、データの入力に際しては、作業補助員を雇用するため人件費を支出する。その他として、NVivo活用に関する研修会参加費、調査の実施に伴う郵送費、通信費を支出する。2018年度の成果を論文としてまとめるために英文校正費を支出する。
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